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2019/07/10 13:41

昔々、あるところに、とても心優しい魔女がいました。
魔女は森にすみ、木々や、小鳥や、リスたちの声をきいていました。


そんなある日のことです。
ぼろい、いかだのようなものにのった女の子が、川に流されていました。
魔女はあわてて、女の子をひっぱりあげます。

いかだだとおもったのは、棺でした。
ほんの一口ばかりの乾いたパンと、木の実と、白いはな。
女の子は顔色がわるく、病気のようでした。体中きずと泥だらけで、足ははだしでした。

心優しい魔女は、きれいな水で女の子を浄め、薬草を摘み、煎じて飲ませました。
すると女の子は、だんだんと元気になっていきました。

どうして、棺なんてものにのって川を?
魔女は問います。
しかし女の子は答えません。かわいそうに、よっぽどひどい目にあったのだろう。

それだけではありません。
新月のよる、女の子はとつぜん、こきゅうも、しんぞうも、止めてしまったのです。
心優しい魔女は、女の子を生き返らせるため、ありとあらゆる術をつかいました。
その甲斐あってか、女の子がは目を覚ましたのです。

わたし、月のない夜に、死んでしまうんです。

とても小さな声で、女の子はいいました。

呪われているの。ねえ、わたしをたすけて……。

心優しい魔女は、呪われたのだという女の子を憐れに思いました。
けれど翌朝生き返るなら、それは死んじゃあいないよ。病気は治してあげる、呪いは、一緒に戦ってあげよう。
そう言って女の子を、家にすまわせました。

まいにち朝と夜に、苦い薬を飲ませました。
木いちごのケーキを作ってやり、時には鹿の肉を食わせ、新月の夜になると死んでしまう女の子に寄り添いました。

そんな生活を、女の子がすっかり大人になるまで、ずうっと続けました。

呪いがとけたのは、いつのことだったのでしょう?
いつの間にか、かつて女の子だった彼女は、病気を治し、魔女の手助けをするようになっていました。
木々に語りかけ、小鳥と歌い、リスと遊び。
薬草の煎じ方、食べられる木いちごの見分け方、鹿の狩り方を学び。

そう、女の子が、まるで魔女のようになったころ。
気がつけば、新月の夜に死んでしまう呪いは、とかれていたのです。

病気も治った、呪いもとけた。お前は、あるべき場所へお戻り。心優しい魔女は言いました。

いいえ、わたしは、わたしを救ってくれたあなたと共にいるわ。帰る場所なんて、他にないんだもの。



森には、心優しい魔女がふたり。
星に詠い、月に耳を澄ませ、暁光に祈り……。そうやって、小さな幸せの中で過ごしていましたとさ。


おしまい。



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