戦うおまえは美しい


今までに無い強大な敵が、何もかもを呑み込もうとしていた。
地上、海界、冥界。三界すべてを巻き込んだ戦いが遂に始まる。そう遠くない未来に「その時」が来ることを、皆誰もが感じ取っていた。それぞれの神が意を決し、神を守護する闘士たちに号令する。今こそ、我等がひとつとなって立ち向かう時である、と。
そして彼等は、思い思いの場所へと散った。聖闘士が守るのは、なにも地上ばかりではない。それは海闘士や冥闘士とて同じことだった。

かくして、二人の男は地上と冥界の狭間に降り立つ。
海界筆頭である海龍のカノンと、冥界三巨頭が一人・天猛星ワイバーンのラダマンティス。
神の号令と同時に、何の迷いも無く両者は合流した。敵が押し寄せるとしたらこの場所以外にないと分かっていた。そしてそこを守るのは、自分たちの役目であると。
二界を代表する抜きん出た実力者が揃うというのは、殊この二人に関しては珍しいことではなかった。翼竜と海龍は共に並び立つものであると、まるで最初から世界の理として決められていたかのような自然さだった。

「死ぬなよ」
「まさか」

海の青を靡かせる彼は、男の言葉に笑ってみせた。
強大な敵の小宇宙が迫ってくる。あまりに大きく、勝てるかも分からぬ相手。
だが、彼が怯む要素など何処にもなかった。むしろ楽しんでさえいる。翼竜と肩を並べ、目的を同じくして共に戦える、この状況を。
「どうせ言うなら」
左手を上げ、男の頭を軽く引き寄せた。さして身長の違わない両者の距離が近くなる。

「愛してる、だろう?」

何の違和感も無く、二人の唇は重なった。
啄むだけのキスをして、極上の笑みを湛えたまま離れる。戦前の餞とでも言いたいのだろう。この続きは戦いが終わってからだと、悪戯っぽく笑ってみせる。他の誰がやっても薄ら寒いだけの仕草だったが、彼にだけは似合うのだから不思議だ。

ああ、どうしてくれる。敵は圧倒的な戦力差で我等を叩こうとしているというのに、おまえのせいで負ける気がしない。
不適な笑みが込み上げる。……戦うことを、これほど楽しく思うのは久しぶりだった。
冥界でカノンと戦った、あの時以来だ。男は強い瞳で射抜かれるのが好きだった。今、カノンの瞳は男と同じものを見据えている。敵として戦うのもよかったが、こうして共闘するというのもまた一興。
高揚と快感が背筋を走る。今までにない感覚だった。なんと心地良いのか。笑みはますます深く刻まれる。
――宴は、これからだ。



(瞬きするのも惜しいほど)





2009/03/24


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