一ノ瀬トキヤの消失


ふわふわと、まるで水槽の中にいるような感覚。
どこかで誰かが泣いている。
俺は泣いている誰かを探そうとして目を開ける。淡い青に閉ざされた空間が一面に広がった。
ここはどこだろう。聞こえてくる声を頼りに四肢を動かすけど一向に進まない。何度か瞬きを繰り返すと視界が徐々にクリアになっていった。視線の先にぼんやりと、人影のようなものが見える。
(……見つけた)
さっきから聞こえてくる微かな泣き声の主。俺はその子に向けて手を伸ばす。目が霞んでそれが誰かは分からない。
(ねえ、泣かないでよ)
発した言葉は声にはならず泡になって溶けていった。でも俺の呼びかけに気付いたのか、その子は伏せていた顔を上げ、俺に向かって何か言うように口を開いた―――





べしゃ。

俺は前触れもなくベッドから転がり落ちた。
「いって……」
頭と背中の鈍い痛みに呻き声を上げる。夢の中で伸ばした手は空を掴んだ。今までの出来事が夢だったと気付くのにそう時間はかからなかった。
寝相があまりよくないのは自覚していたが、ベッドから落ちる程アクロバティックに動いていたとは。流石に少し反省しなくてはいけないだろう。いや、俺が反省するよりもトキヤの説教が先か。
「……あれ?」
俺は天井を見つめたまま目をぱちくりさせた。いつもなら真っ先にトキヤが俺を起こしに来て、早く朝食を食べなさいとか何とかぐちぐち言い出すはずなんだけど。洗面所からは音が聞こえないから顔を洗っているわけではないんだろう。そこでようやく俺は異変に気付いた。何かがおかしい。
腰に力を入れて体勢を立て直し、勢い良く立ち上がる。この瞬発力は長年のトレーニングの賜物だ。
さて、俺のベッドが置かれている部屋の向かい側には、トキヤが―――

「……いない……」

当然あるはずのものが忽然と消え去っていた。
賑やかな俺のスペースとは対照的な、黒を基調としたトキヤのスペースが、そこには確かにあったはずだった。シンプルながら寝心地の良いベッドに、余計な物を排除した機能的なデスク。トキヤはそのスペースを結構気に入っていたようだったからよく覚えている。
……それが、綺麗さっぱり無くなっていた。まるでそこには最初から誰もいなかったとでもいうかのように、広々とした空間だけが俺の鼓膜に焼き付いた。
「え……えっ?」
思わず間抜けな声が出た。唐突な状況の変化に俺の頭はついていけなかった。つい昨日まで、トキヤはこの部屋で俺と夕食を食べて、同じ時間に眠った。そう、昨日までトキヤのベッドはここにあったし、トキヤ自身もここにいた。でも今は、いない。

「トキヤ、どこー?」
とりあえず洗面所やキッチンに足を運んでみたけど勿論いるはずがない。この部屋にトキヤがいた痕跡は見当たらなかった。
これでトキヤの姿だけが見えないようなら、早めに登校したのかなとでも思えた。でもベッドやデスクまで丸ごと消えるのはどう考えたっておかしい。

冷蔵庫を覗いたら、昨日の夕食用に使ったカレーの材料が消えていた。確かトキヤは、人参と玉葱は使いきらずにいたはずだったのに。朝にまた食べましょうと言って鍋に残しておいたカレーもどこかに消えて、その代わり鍋は棚の中に綺麗にしまわれていた。昨日俺がトキヤと一緒にカレーを食べた事実を証明するものは何一つ無くなっていた。
「どういうことだよ、これ……」
気味が悪い。背筋に嫌な汗が流れた。



もしかしたらこれは悪い夢なのかもしれない。夢から覚めたと思ったらそれもまた夢だった、なんて話を聞いたことがある。試しにほっぺたを思いっきりつねってみた。痛い。これが夢なら痛覚を感じないはず。
それでもどうにか夢だと思いたくて、俺は部屋を飛び出していた。一番近い那月と翔の部屋へ駆け込む。
「那月、翔っ!大変だよ!!」
ノックもなしに扉を開けると、着替え中らしい翔が驚いた表情で固まった。俺の叫び声を聞いて那月が歯ブラシをくわえたまま洗面所から顔を出す。
「どうしたんですかあ、音也くん」
いつもの那月の間延びした声に安心した。よかった、那月と翔はちゃんといる。これで他の皆までいなくなってたらきっと俺は頭がおかしくなってただろう。だけどトキヤがいないことに変わりはない。
「とにかく大変なんだって!トキヤがいないんだ!!」
「え?」
那月が不思議そうに首を傾げる。驚くのも無理はない、俺だって最初は信じられなかったんだから。今も信じてないけど。
「だからさ、昨日の寝る時まで一緒にいたトキヤが、今日の朝になっていなくなってたんだよ!ベッドとか机とか、冷蔵庫の中身もみーんな!トキヤがどこ行ったか心当たりある?」
早口でまくし立てる俺の興奮とは真逆に、翔は訝しげな視線を俺に向けた。

「あのさ音也……悪いけど『トキヤ』って誰?」
「……は?」

今度は俺が首を傾げる番だった。人が真剣に心配してるのに、翔は俺をからかってるんだろうか。冗談にしてはたちが悪い。
「トキヤって言ったら一人しかいないだろ、Sクラスで俺と同室の一ノ瀬トキヤ!」
「だから誰だよ。Sクラスにそんな名前の奴いねーぞ?それにお前、最初から一人部屋だっただろ」
「何を馬鹿なこと……」
「バカなのはお前の方だって!昨日もお前、『やっぱ一人部屋は寂しい〜』とか言いながら俺たちのとこに入り浸ってたじゃねーか」
「翔、ふざけるのもいい加減に……っ!」
そこまで言いかけた俺は、翔と那月の顔を見て言葉を飲み込んだ。二人は心底不思議そうにしていたからだ。からかおうなんて意図は微塵も感じられない、ただ純粋に不思議がって……いや、「知らない人間を探して必死になってる友人」を心配する目だ。

「音也くん、その『トキヤ』という子はぬいぐるみさんですか?もしかしたら僕のぬいぐるみさんたちの中に紛れているのかもしれません。探しますよ」
「いや、いいよ……」
一気に声が弱々しくなってしまった。本当に知らないんだ、この二人は。トキヤという人間の存在を。

俺は藁にもすがる思いで翔に尋ねた。
「あのさ……正直に答えて欲しいんだけど、これって俺を驚かせるための企画だったりする?俺、充分すぎるくらい驚いたから、ネタならもう終わって欲しいんだけど」
せめてもの救いをそこに求める。何でもありの早乙女学園だ、授業時間外でもバラエティ実習の一貫という名目でドッキリを仕掛けられてもおかしくない。今にトキヤが「ドッキリでした」というプレートを手に持って現れないかと俺は心から待ち望んでいた。今ならまだ許せる。むしろ嘘であって欲しい。
しかしそういうことを望んでいる時に限って、現実は容赦なく降り掛かってくるものなのだ。翔は呆れたように俺を見た。
「何言ってんだよ、ドッキリならもっと切れのあるリアクションするに決まってるだろ?」
予想通りにして、これが紛れも無い現実だと証明する言葉。俺は墓穴を掘ってしまったのかもしれない。これはドッキリなのではといつまでも疑っていれば少しは楽だった。しかし今、俺は自分自身でこれが現実だと確認してしまったのだ。


俺は行き場のない焦燥感を抱えながら、ふらふらと部屋を出ていった。
二人は俺をやけに心配してくれたが全部振り切った。
念のためと思ってマサとレンの部屋も訪ねて同じようなことを質問したら、やっぱり二人ともトキヤのことなんてこれっぽっちも覚えていなかった。
重たい足を引きずって授業に出て、SクラスAクラス問わず会う奴全員にトキヤを知っているかと尋ねた。答えはみんなノーだ。先生たちすらも首を横に振った。
昼休みには学園の事務室に行って、血眼になって名簿を見た。在学生の中に「一ノ瀬トキヤ」という名前はどこにも見当たらなかった。みんなの記憶どころか、記録にさえ残っていない。



それでも俺はまだ諦めきれなくて、最後の希望を一つの曲に託した。
「七海、君ならこの曲覚えてるだろ……!?」
俺とトキヤのデュエット曲、「ROULETTE」。俺と七海とトキヤの3人で創り上げた大切な曲だ。
譜面も曲データもなかったからアカペラで歌った。必死過ぎる俺を気遣ってか、七海は何も言わずに俺の歌を聞いてくれた。
七海なら分かってくれるはず。この曲は俺一人で歌った所で何の意味もないんだ。俺たち3人が揃って初めてこの曲は完成する。たとえ記憶が書き換えられていたとしても、音楽を通じた絆は決して消えることはない。俺はそう思いたい。

俺が歌い終えると、七海はにっこりと笑ってこう言った。
「とっても素敵です!一十木君、今の曲は誰が作ったんですか?」
その瞬間、俺の僅かな希望は急速に萎れていった。
「……君だよ」
「え?」
「この曲は君が作ったんだよ。俺とトキヤがデュエットして……3人で作った曲じゃないか!」
「でも、あの、」
「なんで……なんで覚えてないんだよ……っ!」
俺は声を荒らげて七海に突っかかっていた。最低な八つ当たりだ。七海は体を強張らせて、「ごめんなさいっ」と小さく叫んで、俺から逃げるように小走りで去っていった。その後姿を呆然と見送り、俺は頭を抱えた。何やってるんだ俺は。こんな八つ当たりした所でトキヤが戻ってくるわけないのに。

一ノ瀬トキヤはこの世界から完全に消えていた。

みんながトキヤのことを忘れたわけじゃない。みんなにとって、一ノ瀬トキヤという人間は最初から存在していないんだ。俺だけがトキヤを覚えている。
この世界は昨日と今日とでまるっきり変わってしまった。いや、もしかしたら俺が変わったのか?トキヤが存在しないということがこの世界の常識で、俺はただひとりの異端。おかしくなったのは俺の方?
目眩がする。何を信じたらいいのか分からない。





その日は、学校が終わるとすぐに部屋に戻って布団に潜り込んだ。トキヤのいない殺風景な部屋の壁を見たくなくて、トキヤがいたはずの空間に背を向けて眠った。こんな状態で寝れるはずないと思っていたんだけど、自分が思っていた以上に疲れていたらしくいつの間にか眠りに落ちていた。
朝起きて真っ先に部屋の向こう側を見る。誰もいない壁がそこにはあった。なんてことだ、やっぱり夢じゃなかったんだ。トキヤはいない。いつもみたいに俺より早起きして朝ごはんを作ってくれて、溜息をつきながら俺を起こしてくれるトキヤは、いない。
そのどうしようもない事実が俺の背中を冷たくさせた。じんわりと目頭が熱くなる。丸一日経ってやっと俺は泣いた。俺以外誰もいないひとりぼっちの部屋で。


結局、学校へ行く気にもなれずに俺は布団を被ったままじっとしていた。遠くで授業開始のベルが鳴る。勝手に休んだらマサたちが心配するかな。でも昨日の俺の様子を察して何も言わずにいてくれるかもしれない。俺にとってはその方がありがたかった。今はトキヤ以外の誰にも会いたくない。トキヤのことを忘れて平然と生活できる皆の神経が信じられなかった。……皆にとっては最初からトキヤはいないものとして認識されているんだから、俺のこのもやもやした気持ちは無意味なんだろうけど。

どうしてトキヤはいなくなってしまったんだろう。
一人になってやっと冷静になった俺は、根本的な問題を考えるようになった。
トキヤのいる一昨日までの世界と、トキヤのいない昨日からの世界。俺だけが何かの拍子に2つの世界の間を移動してしまったんだろうか。なんとも現実味のない話だ。考えれば考えるほど分からなくなっていく。
ただ一つ確かなのは、俺だけがトキヤを覚えているという事実だった。
トキヤは今どこにいるんだろう。トキヤのいる別の世界では代わりに俺がいなくなっていたりするのかな。トキヤも俺と同じように寂しい思いを抱えてくれていたらいいな、なんて。

(……トキヤに会いたい)

トキヤのことを考えると胸がぎゅうと締め付けられた。トキヤがいなくなってからまだほんの2日しか経っていないのに、俺の心は乾きに乾いていた。俺はトキヤがいてくれることを当たり前のように思っていたんだ。毎日長ったらしい説教を右から左に聞き流して、人の話聞いてるんですか音也!って頭を叩かれて、ごめん聞いてなかったーって笑う、そんな何気ないやり取りを。
施設にいた頃はこんなふうに寂しくなることなんてなかった。皆とはいずれ別れるだろうと分かっていたから。いつか来る別れの時を覚悟できた。
トキヤだって同じはずだった。早乙女学園での1年間、それが俺とトキヤに与えられた時間。1年が終わればまた別れ、それぞれの道を歩いて行く。……分かってたはずなのに、何故か俺は、トキヤだけはいつまでも一緒にいてくれると思い込んでいた。どうしてだろう。分からない。

気を紛らわせるためにベッドから出て、キッチンへ向かいホットココアを作る。冷蔵庫は相変わらず空っぽで、調味料と牛乳と卵のパックくらいしか入っていなかった。
テレビをつけるとちょうど昼のワイドショーが流れていた。
『さて、今日はスペシャルゲストに、あの超人気アイドルをお呼びしていまーす!』
女性アナウンサーが甲高い声を上げる。どうせ今流行りのアイドルユニットの番宣だろう。疲れている今は冷めた目でしかテレビの喧騒を見ることができない。
しかし次の瞬間、俺はテレビ画面に釘付けになった。


『お〜はやっほ〜!HAYATOだよんっ!』


―――そこにいたのは、眩しい笑顔を振りまくHAYATOだった。
俺はココアの入ったマグカップを取り落とした。ごとん、と鈍い音がして、マグカップの中の茶色い液体がカーペットを汚していく。そんなことも構わず俺はひたすら画面を凝視した。
HAYATO。表向きはトキヤの双子の兄、しかし実はトキヤ本人が演じていたキャラクター……それが何故、テレビに出演してるんだ?
混乱する。トキヤの消えた世界にHAYATOは存在し得ないはずだ。だってトキヤはHAYATOで、HAYATOはトキヤなんだから……

『HAYATOくん、もうお昼だからおはやっほーはちょっと違うんじゃない?』
『あれ、そうだったにゃあ!じゃあ、気を取り直してひるやっほー!』

会場内で笑いが起こる。テレビの中のHAYATOは完璧なアイドルだった。でもこれは俺の知ってるHAYATOじゃない。顔も喋りも笑い方も、何から何までHAYATOそのものだけど、違う。理由は分からなかったが俺の中で激しい拒絶反応が起こった。

「……誰だよ、お前」

テレビに向かって呟いた。声は震えていた。勿論その呟きがHAYATOに届くことなんて無い。
驚きとも怒りともつかない感情が渦を巻いて俺の中を駆け巡る。
気が付けば俺は立ち上がって外出する準備を始めていた。生放送のワイドショーは1時間番組、今からテレビ局のスタジオに向かえば運良くHAYATOに会える可能性がある。……いや、会わなくちゃいけない。何としてでも。
トキヤのいない世界で何故HAYATOは存在しているのか、あのHAYATOは何者なのか。それら全てを聞き出すために。
トキヤを取り戻す鍵はHAYATOにあると俺は確信していた。だから俺は、行く。





HAYATOが生出演している番組のスタジオは有名だったから俺でもすぐに場所が分かった。
ちょうど番組が終わって出演者たちがスタジオを出る頃だ。俺は警備員の目をかいくぐり、関係者出入り口の近くでHAYATOが来るのを待っていた。端から見たら不審者同然だけど今はなりふりなんて構ってられない。とにかくHAYATOに会うことが最優先事項だった。
「おつかれさまでした〜」
HAYATOの明るい声が聞こえた。緊張で心臓の音がうるさい。HAYATOはマネージャーと二人で車に向かう所だった。この機会を逃してはいけない。
俺はぐっと地面を踏みしめて、HAYATOの元へ走っていった。
「……HAYATO!」
短く、そして鋭くその名前を呼ぶ。HAYATOであってHAYATOではないそいつに向けて。
するとHAYATOは俺をちらりと見た。しかし目が合ったのは一瞬だけで、すぐに興味を失ったように視線を逸らす。テレビの中でのにこやかな笑顔からは考えつかないくらい素っ気なかった。

「待てよHAYATO、俺はお前に話が……!」
「おいこら君、何やってるんだ!」
「離せよおっさん!」
俺の声は警備員によって遮られた。大きな声を上げたせいで気付かれたんだ。警備員は俺の体を抑えつけてHAYATOの元へ行かせまいとする。それに必死で抵抗するものの、揉み合いになって前に進めない。その間にも、HAYATOは澄ました顔で車に乗り込もうとしていた。
こんな所で諦めるものか。俺は声を更に張り上げた。
「HAYATOッ!お前知ってるんだろ!?トキヤがいなくなったこと!」
トキヤ、という名前にHAYATOが僅かに反応した。ほんの一瞬だけだったが俺には分かった。やっぱりこいつはトキヤについて知ってるんだ。

「なんでトキヤが消えてるのにお前はいるんだ!?トキヤはどこに行った!?お前は誰だ!?知ってるなら俺に全部話せって!
なあ、答えろよ!……トキヤを、返せよ……っ!!」

もう俺は泣きそうだった。それくらい必死だった。誰もトキヤを覚えていないこの世界で、HAYATOだけが頼みの綱だった。HAYATOも俺と同じようにトキヤを取り戻したいと考えてくれるなら、協力なり相談なりできるかもしれないと、一縷の望みに懸けていた。
しかしHAYATOは俺を無視して車に乗り込んだ。一言も発さずに俺を拒絶する。何故だ。お前はトキヤの味方じゃないのか。
ぎりぎりと唇を噛み締めていると、HAYATOの乗っている車の窓が開いた。HAYATOの能面みたいな無表情が俺を見下ろす。
HAYATOの形の良い唇がゆっくりと動いた。声はなく、口の形だけで俺に伝える二文字の言葉。


『 だ め 』


そうして、にっこりとHAYATOは笑った。口の端を三日月状に釣り上げて、完璧な微笑をたたえる。
でも目だけは笑っていない。俺を見るHAYATOの目は、どこまでも冷たい光を放っていた。
思わずぞっとした。
蛇に睨まれた蛙のように俺が身動きを取れずにいる中、HAYATOを乗せた車は悠々と発進した。俺は硬直した状態で車を見送ることしか出来なかった。
やがて車の姿が見えなくなると、俺はその場にへなへなと崩れ落ちてしまった。警備員が「大丈夫か」と慌てた様子で声をかけてきたけど全然大丈夫じゃない。全身の震えが止まらなかった。

……間違いない。あれは「敵」に向ける目だ。HAYATOは俺を敵として認識している。
どうして敵対視されたのか、理由は明白だった。俺がトキヤを知っているから。俺がトキヤを取り戻そうとしているから。HAYATOはトキヤがいない世界を維持したいのかもしれない。だから世界を元に戻そうとする俺を撥ねのけた。

(……そっちがその気なら、受けて立つ)

トキヤを取り戻したい俺、トキヤを隠しておきたいHAYATO。
これ以上ないほど分かりやすい対立関係じゃないか。俺の味方はゼロだった。それがどうした。たとえ一人だろうと千人だろうと目的は変わらないんだ。

トキヤのいない世界なんて絶対に認めない。俺は必ずトキヤを取り戻す。
―――こうして、俺の「戦争」は始まった。





2012/01/11


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