ねこまねが迷子になって赤葦くんに泣きつく

東京。
一言でそうはいっても人は多いし、遊びに行くとこなんて限られてるし、電車も自分が乗るとこと上り下り二駅先もわからない。
なのに。

「……ここ、どこ……」

電車の中で押し潰されながら、よく分からない場所に向かっていた。
読み上げられるアナウンスは名前だけ聞いたことのある様な駅の名前を言ってるし。
乗り間違ったのかな。よくわかんない。
ぎゅうぎゅう詰めの電車はすぐ近くに知らない人がいて密接してるし、押し潰されるし、皆体勢がキツいのかひいひい言ってる。至近距離で人の息がかかるこれは正直気持ち悪くて仕方ない。
でも誰も知り合いがいない以上助けてもらうなんて考え出来るわけないし。どうしよう。
てかさっきから誰かの手が太ももに当たってる。仕方ないね。満員電車なんだもの。きっと退けようにも退けれないんだ。すっごい分かる。でも気持ち悪いなぁ。うわ、今、お尻に到達した。スカートが変に揺れてる。早く次の雪崩起こらないかな。

「家狸」
「あかあしくん!」

知り合いがいた安心感で思わず堪えていた涙がぼろっと流れてしまった。赤葦くんはすっごいびっくりした後、何故か顔を顰めた。
「ごめん家狸。ちょっと我慢して」
赤葦くんがわたしの手を引いて、ドア側に押し付けた。背中には鉄の冷たさ。太ももとお尻に残った気持ち悪さを拭い去るかのように冷やしていく。
赤葦くんはわたしの顔の片側に手をついた。そのせいで赤葦くんがとても近い。
仕方ない。満員電車だから。

「何でこんなとこにいるの?」
「何でって……これ通学路だし。音駒とは反対の路線なんだけど……」
「乗り間違った!」
やっぱりな。前梟谷に行った時、ちゃんと駅の名前まで覚えてた筈なのに、わたしの記憶はこの上なく頼りない。
「死ぬかと思った。駅の名前知らないとこばっかだし、知らない人ばっかだし……」

やばい、涙が止まらない。これ以上赤葦くんを困らせちゃいけないだろ、泣き止めわたし。

「ちゃんと送ってくから」
「え!?でも」
「一人で帰したらまた迷子になるだろ。そしたらまた泣いて、変質者に捕まりそうだし」
「……ごめん。……ありがとう」

宣言通り、赤葦くんはちゃんと最寄り駅まで送ってくれた。
人の波からわたしを守りながら、涼しい顔をしていられる赤葦くんはかなりのイケメンさんだと思った。赤葦くんまじ凄い。

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