ねこまねと皆で水遊び

「見てー!貰った!!」

夏休み、練習後のことである。あとは着替えるだけとなったバレー部に、眞桜の友達を名乗る人間が現れ、ビニール袋を眞桜に手渡し去っていった。
眞桜は中身を見て大騒ぎである。何だ何だとバレー部員は集まった。

「水鉄砲か、懐かしいなー」
黒尾が眞桜から取り上げ、中身を見ていると眞桜はなにか思いついたように去った。そして戻ってきた。水を補填した水鉄砲と一緒に。
「えいや!」
眞桜は黒尾に水鉄砲で水をかけた。盛大に。
研磨はそそくさとスマートフォンを緊急避難させる。それは正しかった。間違いなく正しかった。
「うわっ!!何しやがる!!」
「やるでしょ!フツー!」
「じゃあ俺がやっても文句はねえよな」
黒尾は水鉄砲の一つを取り、水道場へと走った。眞桜がそれに気付き、阻止しようとするが、遅い。彼は直ぐに水を補充して眞桜に水鉄砲で水をかけた。
くっ、これでは分が悪い。
眞桜はちらりと目の前の男の幼馴染に目を遣った。

「ゲッ!研磨!研磨ヘルプ!」
「は?」
「かかってもわたしのせいじゃないから!クロ先輩のせいだから!」
「2対1とか卑怯だぞ!」
「は?卑怯じゃないもん!研磨動かないし!」
「それでもそっちの人数が多いことに変わりはねえだろ!……あ!リエーフ!山本!ちょっとこっち来い!」
「何スかー?」
「何してるんスか?」
アグレッシブな面子に眞桜の顔が変わった。これは貧弱な自分たち(しかも片方はやる気ゼロ)では勝ち目の無い戦いではないか。彼女は憤然として抗議した。
「は!?そっちの方がなんか攻撃的なメンツじゃないっすか!夜久さんヘルプ!」
「お前らはまた馬鹿なことばっか……っ」
「水鉄砲だ!何でもっと早く呼んでくれなかったんですか!」
「楽しそうっスね!」
「いいからお前らこっちに加勢しろ!」
これは本格的にやばい。眞桜は夜久に泣き付いた。
「やっ夜久せんぱいいいい!助けてえええ向こうなんか活動的なのばっか!!」
「は?いや、確かにアグレッシブなやつらばっかだけど……」
「めんどくさい」
「研磨のばか!ひどい!」
「隙あり!!」
アグレッシブで怖いもの無しな黒尾、リエーフは口論していた三人に水鉄砲で水をかけた。
ウェーイと喜ぶガキ二人に、山本はこれでもかという程焦った。なぜなら目の前の160センチ台の男を見たからである。
「……あのさ、おまえら……」
その場に地を這うような低い声が響き渡った。
「ゲッ!夜久先輩やばくない?」
リエーフよ、気付くのが遅い。
山本は菩薩顔をした。
「濡れた……っくし」
「研磨!風邪!風邪ひくあかん!わたしが守ってあげる!」
「その前に着替えな。研磨」
「いってら研磨」
「うん」
研磨のくしゃみにより、一度夜久のおかんモードが呼び起こされ、恐怖のオーラは抜けた。だが、研磨が部室に戻った瞬間、夜久はにっこりと笑った。

「で、お前ら」
「はっ、ハイ!!」
「…………そこ、座れ」
ですよねー。
「ハイ……」
大人しく二人は正座した。夜久の後ろで眞桜は笑っている。当に虎の威を借る狐だ。くっと正座した二人が眞桜を恨めしそうに見た。
「で、どうすんの?眞桜はともかく俺も研磨もびしょ濡れなんだけど」
「なんで?なんでわたしは??なんでー?」
「すいませんでした……」
「だよな?じゃあやることはきまってるよな?」
「え?何すればいいんですか?」
哀れな空気の読めないリエーフは夜久に転がされた。
「ひいっ!」
これは味方である眞桜さえもびびった。
「あ、あれだよな!あれ!」
黒尾は目を泳がせ、言った。
「おっ?!先輩わかるの!?」
「眞桜、そっち行きたいか?」
「!?け、けんまー」
眞桜は逃げようとした。だがその足を黒尾が掴んで転ばせた。お前だけ逃げるなど。
だが、眞桜の目がうるうると潤んでいく様子を見て焦り始めた。今どき転んで泣く高校生がいるのか!?
「先輩がいじめるー」
「っいじめてねえよ!だから泣くな!な?」
「ううっ」
勿論嘘泣きである。
「お前らも茶番をどうにかしろな」
見抜いた夜久は二人に拳骨の刑を下した。
「いてっ!!」

彼らの悲鳴が響いたことにより、早くもこの事件は解決したのであった。
そして翌日、この贈り物をしたクラスメイトに彼女の鉄拳制裁が行われる事を知っている者はここにはいなかった。
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