ねこまねが梟谷マネに嫉妬/赤葦が嫉妬
眞桜は珍しく一点を見ていた。
「赤葦ー、あのさ」 「なんですか」
流石同じ高校であるだけあって、赤葦と先輩マネージャー達の関係は良好である。スコアボードを片手に赤葦に話しかける先輩マネージャー達を見て、眞桜はむっとする。
なんか苛々する。
眞桜は夜久に抱きついた。 身長のそこまで変わらない夜久の肩に額を乗せ、拗ねた様に口を尖らせる。夜久は機嫌の良くない眞桜の扱いに一番長けているので、眞桜もそんな時には夜久の元へ真っ先にいくのである。 夜久は眞桜の頭をわしわしと撫でた。
「どうした?眞桜」 「夜久先輩ー」 「どっか痛いのか?」 「特に痛くないですけどー」 「抱きついてちゃわかんねーだろ。ちゃんと言わなきゃわかってやれないんだから」 「わたしもわかんないんですけど」 「は?」
拗ねた様に眞桜は夜久から離れ、備品を取りに体育館倉庫へ向かった。 さっきのはなんだったのだろうか。 眞桜は無い知恵を絞り考える。 何故かもやもやする胸を人さすりし、眞桜は箱に入ったネット巻きハンドルを探す。体育で使われる他のスポーツの道具の中で、小さなハンドルの入った箱は埋れてしまって中々見つからない。他校なら尚更だ。 眞桜は更に大きくなっていくもやもやと苛々に地団駄を踏みたくなってきた。かといってポールに八つ当たりするわけにもいかず。フラストレーションを溜めたまま、苛々と手当たり次第に箱を開けていく。 眞桜を追って後からやって来た赤葦はそんな眞桜の手首を掴んだ。
「家狸」
赤葦の不機嫌そうな声に眞桜は一瞬肩を揺らしはしたものの、こちらも不機嫌そうに答える。
「マネさん達との話、いいの」 「家狸こそ」
眞桜は細めていた目をキョトンと大きく開いた。
「は?わたし何かした?」 「家狸は孤爪とか、色んな人に抱き着くよね」 「?……うん。仲良い人にはそこそこ抱き着くけど」 「……」
赤葦は眞桜の腕を引いた。 うわっ!? 驚いた声を上げる間も無くバランスを崩した眞桜は赤葦の胸に衝突した。そして赤葦はその薄い背に手を回す。 眞桜は空いた手を何処にやればいいのかふらふら彷徨わせた後、赤葦のジャージの裾を握り締めた。
「……あ、えっと……」
どうしていいかわからないままの眞桜は困惑したように、あ、やら、え、やら言葉にならない音を発している。赤葦は赤葦でその細い身体を離さず柔らかい力で抱き締めていた。 暗い倉庫の中、暫く眞桜を抱き締めていた赤葦は、じっと扉から二つの目が此方を覗いているのを見つけた。
「赤葦クーン、何してるんですかね?」
それは音駒の主将、黒尾であった。 我に帰り、慌てて抱き締めていた手を離すと直様黒尾が眞桜を抱き上げ暗い倉庫を後にする。 赤葦は暫く呆然としていた。彼が一番自分のしたことにびっくりしているのである。 そして彼はその後自分のジャージに少しだけ付いた眞桜の匂いに気付き、赤面するのだった。
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