▼ 迷子の迷子のねこまねちゃん

「ヘイヘイヘーイ!音駒のマネージャーだぞーっ!」
「木兎さん大声での報告要らないです」

木兎の大声に梟谷の皆が反応した。
わらわらと集まる人々にびくつく眞桜は小動物を彷彿とさせた。

「うわぁかわいい。お人形さんみたい」
「音駒のマネージャーだからねこまね?」
「ねこまねちゃん、名前は?」
「家狸 眞桜です」

三年生のマネージャーに囲われながら、眞桜は曖昧な愛想笑いを浮かべた。それを見た梟谷のマネージャーたちはそれはそれは良くしてくれた。
その結果、眞桜は彼女たちに懐くまではいかないものの、笑顔を見せるまでに至った。大した進歩である。
そして音駒の所に戻った眞桜はニコニコと笑って研磨に引っ付いた。
引っ付いた眞桜に研磨はやはり大した反応を見せなかったのだが、さり気なく声をかけられなかったかを聞いた。
その瞬間何気に責任を感じていた黒尾の耳がそっちに向いた。
「あー、梟谷の一般の人らしき人に声かけられたけどその後に梟谷のバレー部のなんか髪の毛変な人に声掛けられて連れてってもらった」
「……そう」
そわそわと近付いて来る黒尾に研磨は呆れたように呟いた。

「…………クロ」

黒尾は研磨ごと眞桜を抱きしめた。
「すまんかった!眞桜!」
「取り敢えずやめてクロ先輩縁切るぞ」
「……眞桜、俺のこと嫌いだろ」
「……研磨よりは」
黒尾は眞桜の頬を抓り、そのお返しとばかりに睨み付けられた。
後で覚えてろよとばかりに眞桜は苛々と足を踏み鳴らし怒ってるぞアピールをする姿は梟谷を和ませた。
だが、音駒は普段通り過ぎてスルーである。違う事と言えば練習試合であることに気を遣って眞桜が噛み付いたり叩いたりしない事くらいだ。
その猫共の戯れ合いはオカン夜久の鉄拳により終わりを告げたのだが。


「うわ、あの変な頭の人超強え」
「そうですね!」
「超喧しいけど。あの人あれ?五本の指の」
「はい。木兎さんですね」
「…………セッター大変そ」

上がったり下がったりする木兎に同じようなものだというのに眞桜は呆れたような声を上げた。
とはいっても大エースである木兎の攻撃に賞賛の声を上げる眞桜はやはり人の事を言えない人間である。
スコアをつけながら、眞桜は試合から目を離さない。
バレーに疎い訳ではない為にこういう機会を待ち望んでいたのだと黒尾は分かっていたのか。
眞桜は人一倍この機会を楽しんでいた。
足をぱたぱたさせながら試合を見つめる姿に自然と顔が緩む者もいる。
音駒は一セット目を落とし、二セット目を取った。
二セット目には木兎はしょぼくれていたのだが。

「あ……」

研磨の視線を欺いた赤葦がにやりと口角を上げた。
その時急にぱたぱたと動かしていた眞桜の足が止まる。
下がっている芝山が声を掛けた。

「どうかしたんですか」
「…………あのセッター、あんな顔するんだ」

きょとんとする芝山をさておき、眞桜は目線を彼から退かそうとしなかった。


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