▼ 難しいよね!山口くん!

「お。ジャンプフローター練習してる子」
「っ家狸さん!」

山口の鼓動が速くなった。
勿論眞桜の容姿が整っているというのも一因だが、眞桜が背中にいきなり声をかけたというのも大きいだろう。
眞桜は山口のサーブ練習を見ていたようで、些か興奮した様子で目を輝かせ、胸の前で指を組んでいた。

「いいなあ!いいなあ!わたしもバレーしたいな!」

その言葉に山口は以前の眞桜のレシーブを思い出した。
腰を落とし、体全体で衝撃を分散させている様なレシーブは眞桜のバレーをしていた時期が短くは無いことをあからさまなまでに伝えるものだった。

「なんで家狸さんは……、何でも無いです」
「?そお?あ、ジャンプフローター打ってみてよ!取りたい!」

あっという間にネットの向こう側に行った眞桜に山口は溜息を吐いた。

「取られたら意味ないんだけど……」

そして一本。
上げたボールが落ちてくる。
そして手の届く所に来たらスイング。この時掌で押し出すような感覚。
どれも山口には掴めていない。一朝一夕でできるものでは無いとはわかっていても、落胆するのは当然の事だ。
山口の打ったボールは眞桜に簡単に拾われた。

「難しいよね。これ。わたしもパワーないから挑戦した事あるよ」
「え?!」
「お手本になんないけど、見てみる?」
「あ……」

こちらに走り寄ってきた眞桜の両手で抱えられたボールを見て、少し苦い気分になった。

「自分で、します……」
「いい心がけ!千里の道も、一歩からだもんね!」

山口の芳しく無い返答にも眞桜は笑顔で返した。
山口は眞桜が月島と仲が良かった事を思い出した。
なぜ、こんなバレー馬鹿みたいな眞桜と月島が仲良くしているのか。
それはこれまで山口が気になっていた事だった。

「あ、あの!」
山口に背を向けた眞桜は振り返った。
「こんな事いうの、間違ってると分かってるんです。でも……聞きたくて」
「なんでも聞いちゃって!!」
「家狸さんは、ツッキー、どう思いますか?」

眞桜は一度目を丸くして、瞑った。
腕を組んで考えていますというポーズを取るあたりが眞桜が馬鹿と言われる一因となっているのだが、この場合山口は分かりやすくてイイなと思っていた。

「うーん。なんだろ。あの子あたま良いよね」
「はい」
「でもレシーブ下手くそだし。まぁあの身長だからもとから苦手ってのもあるかもねー。だから尚更練習して来なかったのかも。その上練習とかある程度が出来ないとか恥ずかしいって思ってるのかな、と思う」

諫言だって全て感じた事だから。
きっとこんな事も眞桜は月島の前でだって言うのだろう。
山口は眞桜を日向や影山に近いモノだと推測した。本能で動く獣タイプ。
人間には近いとは言えない存在。
凄いと思うと同時に怖いと思った。
きっと彼女には本質を見る目がある。

「そんなのは同じチームの君から見た方が分かるんじゃないの?」

にこにことした美少女の中の獣はただ只管にバレーを追い求めているフシがある。
何故彼女はここにいるのだろうか。

山口はもう一度眞桜を見た。

「あの……ありがとうございます」
「いーえ!」
「あと……ジャンプフローター、見せてもらってもいいですか」

山口の言葉の後、眞桜は楽しそうに笑ってボールを取った。


アンケリク:山口との絡み
山口とツッキーについて語る


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