▼ 梟さんに遭遇
あのくそ鶏冠ヘッドめ。放りだしやがって。
黒尾に悪態を吐きながら眞桜はぷりぷりと怒りながら迷子になっていた。 眞桜は人見知りな面がある。研磨のようにあからさまに目線を合わせようとしない訳ではないが、基本的に知らない人が怖いという感覚くらいある。 それが運動能力抜群の動物そのものみたいな奴であろうと、警戒する姿は当に珍獣の名に恥じない程の警戒っぷりであった。 だが忘れてはいけないのが彼女の容姿である。 妙に顔が整っているせいで、顔だけを見て寄ってくる人間も多いのだ。 現に梟谷のマネージャーのところに行こうとする彼女の所に、一人の男が寄って来ていた。
「君、めっちゃ可愛いね。こんなカワイイ子学校にいたら覚えてんだけどさ」 話しかける男を眞桜はじっと見上げる。 その大きな黒目に映されている男は頬をほんのり赤く染めた。 「他校の子だよね。どこの高校?何部?」 話から梟谷の人間だと判断した眞桜は余所行きの態度で彼に話しかけた。 「……あの、バレー部の、マネージャー、しりませんか」 「あ、バレー部か!」 眞桜が口を開いた途端男はにっこりと笑顔になった。
だが、その時運悪く木菟ヘッドが通りかかったがために、彼のナンパは失敗した。そして木兎の勢いに負け、気付いた頃には消えていた。 木菟ヘッドこと木兎はバレー部という単語を拾い上げ、物凄い勢いで眞桜に迫った。
「お前が黒尾の言ってたマネージャーか!」
馬鹿でかい木兎の声が眞桜の耳を通り抜ける。その際のあまりのボリュームに眞桜は思わず目を瞑ってしまった。 そして無遠慮に頭を押さえた。 「頭がキーンとした……」 「おっ!スマン!」 その声に何だ何だと人が集まる……わけでもなく、黒髪の男が歩いて来ただけだった。梟谷では木兎の大声やこのテンションなど慣れっこなのだ。 「こっちまで声が聞こえてますけど木兎さん」 「おっ!赤葦!これが音駒のマネージャーだ!」 「だから聞こえてます」 ギャンギャン喧しい木兎に対し、随分涼しい顔で落ち着いた声で対応する人だな。 冷静な眞桜はぼんやりとそう思った。
その頃、甘えてばかりではいけないと放り出した黒尾に、くっつかれようが何をされようが、無反応を決め込んでいた研磨が咎めるような目線を遣った。 「クロ」 「ん?」 黒尾は何だかんだ言って眞桜に甘い幼馴染の厳しい目線に応えた。 「眞桜一人で行かせて良かったの」 「あいつもいいかげん一人で動かせて大丈夫だろ」 心配し過ぎ。 そのニュアンスを含んだ声に、研磨はスマホを見つめて反応を返さなかった。 「知らない場所だったらヤバイんじゃないの。変なのに声掛けられてるかも」 「!!」 眞桜の中身を知っていても可愛らしい顔が黒尾の脳裏に浮かぶ。 やばいかもしれない。 いや、でも梟谷の中だし。 背中に冷汗が伝うのを黒尾は無視し、皆を体育館へ急がせた。 →
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