▼ 男の人って、こんなふうに泣くんだね

負けた。
わたしたちは、音駒高校は二日目で終わってしまった。
二日目の相手は去年の優勝校で、所謂優勝候補というやつで。運が悪かったってやつだったんだろう。でも、勝ち上がればいずれはぶつかる相手だった。
だとしても少しでも長くこの先輩達と一緒にいたいという気持ちは消えないし、諦めなんて更につかない。
もしかすると、わたしはこのチームに自分が出来なかった夢を重ねてるだけなのかもしれないけれど。

「クロ、せんぱい……」
「……終わったな。お疲れ、眞桜」

誰も泣かなかった。
先輩達は、毅然とした態度でコートを去った。
泣いたのは一年だけだった。堪えてはいたものの、決壊して、眉が寄っていた。二年は歯を食いしばっていた。
研磨だっていつも通りとはいかなかった。
やる気なんてもの、見えない人ではあるけど、バレーが嫌いじゃないし、このチームが好きだと思う。
だけど、研磨は、……みんなは聞き分けが良いから。先輩達に任せちゃうんだ。
割り当てられた控室で、わたしに背を向けた主将を残して、ひとりにしちゃうんだ。

「なんで、なんで最後みたいに言うのぉ!?」
「……っ」
「そりゃ、ずっと同じチームとか無理ですよ!そんなものありませんよ!」

その広い背中からは汗の匂いがした。ぺとりと頬に張り付くユニフォームは夏だからという言葉だけでは表せない。
先輩の大きな体は暖かくて、そして同時に冷たく感じた。
冷えていく。
硬いお腹に回した手に力を込めた。

「せんぱい、わたしはせんぱい達と全国に、いきたい……っ!」

先輩は答えなかった。
堅治との会話が頭の中でぐるぐる回ってる。
堅治のとこの先輩は早々に抜けていっちゃった。そして、二年がキャプテンマークを付けている。
わたしたちもそうなってしまうかもしれない。
クロ先輩じゃない誰かが下に白い線を付けて歩いて行くんだ。
いずれはそうなる。
でもそれが今だなんてやだ。学校にもいるのに、違う人みたいじゃない。
わたしが知らない先輩達で構成されていくのも、チームが違うチームになるのも嫌だ。
まだ、もう一回。
その為にわたしは縋り付く。

「受験もあるし、三年だし、強く言えないけど……っわたしは、先輩とまだバレーをしていたい……!」

クロ先輩は大きな溜息を吐いた。

「わがままプーだな、お前。ホント」

分かってる。そんな我儘だって。
先輩は固く絡み付いたわたしの指をゆっくり開いて、握った。

「全国、行くぞ」
「……うん!」

そして頭を強く下に押された。下、向けってことか。乱暴にぐしゃぐしゃにされた髪を解いて頭を振ると、犬かよと笑われ更にぐしゃぐしゃにされた。

「その前にさ、お前のねぇ胸貸してくんね?」
「失礼だな、ホント」

鼻をずるずる啜って、汚い顔で軽く手を広げた。
立ったままのわたし、座った先輩。
わたしの腰に太い腕が回り、厚い掌が背中を押した。
目線の下にある黒い鶏冠頭が萎びているのはきっと気のせいじゃない、筈だ。
初めて見たクロ先輩の堂々としていない背中はすこし、震えてた。


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