▼ ドンマイ!二口くん!

昨日、ひなちゃんから電話があった。

伊達工に!勝った!

興奮気味な彼の言葉に凄いねと良かったねを返す。
確かに良い事だ。凄いことだ。
だが、一方でそれを褒めることは残酷な事なのだ。

「堅治」
『何で電話掛けたか分かってんだろ』
「……うん」

ひなちゃん。……烏野が勝ったということは負けたとこがいるという事。

『負けた。烏野に』

つまり、伊達工は負けたということ。

「あー、おつかれ」
『お前もっと無えのかよ。慰めるとかさ』
「堅治慰めてほしかったの?」

凹んだ様子だってことも堅治の声を聞いていればわかる。
伊達に従兄妹をやってない。
でも、それでもわたしは慰める気は毛頭無かった。

「わたしはやだ。堅治に腫れ物に触られるように扱われるの。態とらしく慰められるのも。なのにわたしから堅治にはそれをしなきゃいけないってこと?」

わたしのモットーは、自分がされて嫌なことをヒトにするな。
それは怒った時や噛み付くとか以外、常に守ろうとしている事だった。噛み付くのは仕方ない。あれはアレだ。
小学生の頃からわたしはそれをきっちりと守り続けている。

堅治はずっとだんまりだった。
なにも反論しない。珍しく文句ひとつ吐かない沈黙は少し痛かった。まるで、わたしがひどい事してるみたい。
一瞬続けるか続けないか迷ったけど、堅治だからという理由で続けることにした。

「好きなことも知ってるし、負けたら悔しいのも知ってる。ずっと同じチームでいられないことも分かる」

賢治に言ってるのにまるで自分に言い聞かせるように言ってるみたいだ。
頭にクロ先輩達が浮かんだ。
わたしたちは、あとどれくらい一緒にいられるのだろうか。

ちがう、そうじゃない。そういう事が堅治に言いたいんじゃないや。

「堅治はさ、頑張ったねって言ってもらいたかったのかもしれないけど。……わたしは言わないから。他の人に言ってもらってるでしょ。わたしは堅治の頑張りを知らないから軽率なこと言えないし、……あー、負けたんでしょ?じゃあ先輩達にリベンジ誓うくらいしなよ。先輩、出てったんでしょ?」
堅治の方で、息を呑んだ音がした。
「…………でも、お疲れ」

少しだけ、鼻をすする音がした。暫くして、でっかいため息がこちらまで聞こえてきた。

『お前鈍くて馬鹿だわ。……それで素直というかなー』
「嫌なの?」
『いーや。寧ろ好き』
「わたしも好きだよ」
『……馬鹿。今のナシな』
「なんでよ」
『黙れぺったんこ……ありがとな』

切られた。
ツーツーという電子音だけが聞こえてくる。どういう事だ。七三め。

そしてスマートフォンをベッドに投げ捨ててぼんやりとしていると、さっき無理やり打ち切った考えがひょっこり顔を出した。

わたしたちはいつまで同じ場所にいれるんだろう。
頭の中で、クロ先輩の大きな背中が浮かんで消えた。


アンケリク:IH後、二口を罵りながら慰める


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