▼ 吃驚した!赤葦くん!

おかしい。
この音駒のマネージャーは俺のことを怖がってたような気がしていた。
避けられていたのは確かだし、大きな目が不安そうに揺れたのしか見た事なかったし。
そんな音駒のマネージャーが、俺に笑顔を向けた。
何をしたかは知らないが、怖がられて避けられるのはあまりいい気はしない。でも同じ学校じゃないから気にする事もないと思っていた。
照れたように少しだけ頬を染めてにこりと歯を見せた笑顔は幼い子供みたいだと思った。
まぁ急にそうなると態度が変わってしまうのは仕方ないことだ。
ふい、と視線を逸らすとあからさまにショックを受けたという顔をしてこっちに寄って来た。
俺も初めての事だから少し吃驚してる。

「俺のこと、怖がってたんじゃ……」

距離は一メートルあるかないか。そんな近くまで彼女がやって来たのは初めてだ。

「!?誰がそんな事言ったの!?」

彼女は理解出来ないと言いたげな顔をしていた。
俺の方が理解出来ていない。

「誰も言ってないけど、明らかに俺のこと避けてたし」
「!?」
彼女の頭にぴょこんと立って萎れる猫のような耳が見えたような気がして目を擦る。幻覚か。
俺は疲れているのかもしれない。
「違うの?」
「ち、ちがっ!」
「じゃあ何で避けてたの?」
「……!?避けてるように見えてた?!」
「うん」

彼女はパーソナルスペースが広い方なのか。狭い方なのか。それとも癖か。
人形のような見た目に相俟って、子供のような彼女は俺のTシャツの裾を摘み、引いた。
黒い髪は天辺からみてもふわふわとしている。高校生で高い位置での二つ結びが似合うのもこの人だからなのか。何なのか。

「避けたつもりないです。……とりあえず埋まりたい」
埋まりたいって何だ。この人電波か?
「?……まあ、勘違いでよかった」
「……良かった?」

何故良かったと言ったんだろうか。
さっきまで違う学校だから構わないと思っていたのに。

「これから会うことも少なくないだろうし、気まずいままっていうのは嫌でしょ?」
「確かに!」

彼女はぱっと顔を上げた。目が輝いてる事から納得はしてくれたみたいだ。
取り敢えず言い訳を羅列しただけなのに、この人は簡単に納得した。俺は納得していないというのに。

「!わっ、近……っ」
「あ、ごめん……」

意外と近かった距離に吃驚する。
身長は低くない。細いから小さく見えるけど。
この距離は俺が彼女の身長を見誤ったせいだろう。

「いーえ!」
「ごめん。あと名前、何?木兎さん下の名前でしか呼ばないから」
流石にこの人の事を名前で呼ぶ事は出来ない。
名前で呼ぶなんて余程親しくないとないだろ。
少なくとも今日初めて話した女子を下の名前で呼ぶ事はできない。
彼女は一度きょとんとした表情を浮べ、またあの照れくさそうな笑顔を浮べた。
「家狸 眞桜。二年。よろしくおねがいします」

なるほど。笑う彼女は確かに可愛いと思った。


アンケリク:赤葦くんとの絡み


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