▼ わたしらしくいられない

「梟谷に行ってこれ返してこい」

クロ先輩から預かった白いが透けない袋を手渡され、梟谷へ行くように命じられた。まじか。嘘だろ。……マジだった。
今回で二度目の梟谷学園はやはりデカくて流石私立だなあと感心した。私立はやはり金があるらしい。
体育館も三つあるんだよなぁ。
バレー部がやっている体育館に行って開いてる扉から不法侵入。こんだけでっかく開いてるんだからいいよね。

「あ!眞桜!」
いの一番にわたしを見つけた木菟ヘッドは確か……。
「いーっと、あー、ぼくと、さん」
そうだ木兎さん。
木兎さんは鳥目を可能な限り大きく開き、吃驚していた。口が閉じてないですよ。大丈夫ですか?
「喋ったアアア!!」
「喋りますよ!?」
わたしはそんな喋らん奴ではない。
第一印象とこれ程までに違う奴は居ないと言われるだけのことはあるが、基本わたしはやかましい部類だ。
以前、梟谷に来た時は知り合いが誰もいなかったから喋れなかっただけで。
もうマネさん達とも仲良しだし、大丈夫。
そうしてなんだかんだで練習に誘われ、彼らの練習を見ていくことにした。
タオル、ボトルの用意はもうしてるし、ジャグの中も満タンにしてきた。
クロ先輩だってこれを予想してわたしを行かせた筈だから多分いいと思う。

基礎練、そして個人練。個人練習では木兎さんはストレートしか打ってない。
それにしても強烈なストレートだな。
……ん?この人クロス打ち得意じゃなかったか?
休憩中の木兎さんの所に行き、裾を引いた。

「強打スゲーっすよね!クロス打ちはしないんですか?」
「クロス打ち止められまくってさ、ストレートめっちゃ練習したんだよ!」
「なるほど!だからあれか……!うち結構止められなかったんですよ!」
「だよな!オレ最強ーっ!!」
「すっげーッス!」

……と、最初は良かった。

「見とけよ!?オレのスーパースパイク!」
「うっす!」

段々とテンションに疲れてきた。

「見たか眞桜!見たか!見たか!」
「……見ました!」

いや、確かにすごい。
凄いんだけど……。

「眞桜!」
「…………」

わたしは逃げた……いや、逃げようとしたけど無理だった。捕まった。

「眞桜!」
木兎さんが大声でわたしの名前を呼んだ時、ヒョイッと誰かに肩を掴まれ、庇われた。
目の前に大きな背中が広がる。
上にある、黒い癖っ毛。……まじか。

「木兎さん流石にそこまでいくと喧しいと思いますよ」
「なんだよ赤葦ィ!折角眞桜が喋るようになったのに!」
「ウザがってますよ。多分」

落ち着いた声だ。わたしと同い年とは思えない。
ホント同い年か?

「あ…………ありがとうござい、ます」

目が合わせられない。声が震えるのが判るし、何か体も熱い気がする。
こんなのわたしじゃない。
どうしてだろうか。この人の前だとわたしらしくいられない。


アンケリク:木兎さんに絡まれる→喜ぶ→構う→逃げる→構う→赤葦くんに助けられてキュンとする


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