「ヒーロー」に近付くために。
沙保は昔から我慢の人間であった。
勝己に嫌味を言われようと、いじめられようと、他の人間から蔑まれようと、耐えた。耐えに耐えた。
彼女は幼少の頃から稀な体験をした人間である。
個性は本来四歳までに現れるのが普通だ。
だが、彼女は個性の特性故に四歳までに現れず、無個性として二割の人間として扱われていたのだ。彼女の関節はふたつでは無い。
そういう意味では、沙保は勝己に感謝している。だが、幼少期掛けられたちょっかいや嫌がらせや嫌味の数々を忘れるかと言えばそれは話が違うのである。

「お前も受かってたのかよ」
「悪い?」
「良くねェよ。テメェみてぇな端役に何が出来るっつうんだ没個性。テメェなんていっちょん凄くねぇんだよ」
「爆豪くんってばホント塔みたいな自尊心で出来てるよね。それ、ほんと折ってやりたい」
「あ?出来るもんならやってみろクソモブ」
「やるよ!ってかついてこないでよ!変態!」
「ふざけんな!俺もコッチなんだよ!テメェこそ何でコッチなんだよ!ふざけんな!」
「ふざけんなしか言ってないじゃんボキャ貧!」
「死ね!ブッ殺す!」
「お前が死ね!」

彼らの行き先は同じである。
ヒーロー科1-A。そこそこ狭い、とはいえニ、三人は横一列に裕に並べる程の廊下で、彼らは不本意ではあるのだが横並びで、挙って教室に向かっていた。だが、彼らはどちらも思っていたのである。相手が必ず違うクラスへ行くと。だが、残念ながら行き着く先は一緒であった。

「……えっ、嘘でしょ。最悪……」
「コッチこそテメェなんか願い下げだ。やめちまえ」
「さいってー!いっくんいればいいのになぁ!爆豪くんじゃなくって!」
「デクが受かったのなんざ奇跡中の奇跡に決まってんだろアホが。ついでにテメェもな」
「痛っ!痛い髪引っ張んないで最悪!まじ死ね!」
そして二人は張り合うように教室に入った為に、同じ中学かつ仲良しと間違えられる事になるのだが、お互いの事で忙しい彼らは只管お互いを小学生の如く罵倒しあった。

沙保が無個性としていじめられたのは勝己が一因となっている。だが、彼女が戦うための力を見つけたのは意図したことでは無いとはいえ勝己のおかげでもある。本人には勿論そんな気はないのだが。
沙保はその事をしっかり理解していた。
そうはいっても気に入らないものは気に入らないのである。
小学生の頃に髪を燃やされた事も、お前なんかヒーローになれないと言われたことも、そして未だに没個性と言われることも彼女は確り根に持っている。
打倒爆豪勝己、そして。
彼女の中には今も燻る思いがある。
ヒーローになる為になら、なんだって頑張ってやる。
だから彼女は雄英に来たのだ。
ヒーローになる為に。
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