シュレディンガーの猫
「沙保ちゃん」

試験は終わった。
リカバリーガールに火傷を治療されたせいなのか、それとも沙保がバールを振り回して仮想敵を蹴散らしていたからなのかは判らない。だが確実に彼女は消耗はしていた。
圧倒的に足りないポイント。そして最後のラムネ菓子。
全てが彼女を落胆させていた。
これは、もう無理かもなぁ。
彼女は溜息を深く吐き、雄英から少し離れた場所にある自動販売機に小銭を入れた。目を瞑り、そして適当にあったか〜いと書かれた欄のボタンを押したその時、意識を取り戻した出久が帰ろうとしていた所に出くわした。
「いっくん……」
出久も何処か落胆したように。そして何処か泣き出しそうになりながら彼女に向き合った。
試験会場から100メートルも離れていない場所で、大量の受験生達が試験の出来について語っている。その中から漏れず、彼らも試験の話をしようとしていた。
「僕、落ちた、と思う……」
「そ、うなんだ……」
「ごめんね、一緒に受かろうって言ってくれたのに……」
出久は俯いた。沙保は手をとろうとして、止めた。
「……私も、やばいよ」
未だ、彼女の「あったか〜い」飲み物は自動販売機の中にある。
結局沙保は何を押したのか、さっぱり判らない。だから中に何があるのかも判らない。だが受験は違う。大凡は自分で分かっているものだ。

自分は落ちた。
何故かあの時ラムネ菓子を貰った時、沙保はそう思ったのだ。

「連絡先、交換しよ」
沙保はスマートフォンを取り出し、出久に向けた。
「……うん」
出久も取り出し、彼女にスマートフォンを向けた。



それから一週間後の事だった。
擦無家においてポストを見るという役目は沙保が担っていた。厚手のカーディガンを羽織り、欠伸をしながら下のロビーにエレベーターを使って下りる。そしていつものようにダイアル式のポストを開けると広告の間に白い封筒があった。
「……うっそ」
その裏には雄英高等学校という文字があった。
「お母さん!来た!!なんか!来た!!」
「何かって……!」
エレベーターの中では怖くて開けることが出来なかったもの。それを母と二人でドキドキしながら開ける。
中にあったのは予想通り紙だった。
二つ折りの方を沙保が、分厚い方を母が、同時に開ける。すると真っ先に飛び込んできたのは合格通知だった。
沙保は真っ先にスマートフォンを手にとった。
掛ける先はもうとっくに決まっている。
ツーコール先に、彼は出た。

「い、いっくん!私!受かった!」
「僕も、受かった!」
「やった!!」

合格通知開封のその日。
彼女らはヒーローへの道を歩み始める。
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