脅威襲来
 相澤の言葉に動揺が走った。それもおかしなことではない。雄英高校の警備は厳重だ。それは誰もが知っていることだ。その雄英高校が破られたとなるとそれは大きな絶望と不信感に繋がるのである。ヒーローを育てる名門の雄英の名声も失墜する。もちろん教師も。
 だが、この場合そんなことにまで目が向く段階ではなかった。子供たちを守り、敵を殲滅する。それが今回の一番の最善となる選択だろう。層の薄いこの面子で唯一戦闘経験の豊富な相澤は瞬時に思考を巡らせた。相澤の個性は明らかにサポート向きである。だがこの場合仕方がないというものだった。サポート向きとはいえ彼もプロヒーローである。戦い方のストックはあった。
 先日雄英の壁が壊された一件と関係性が疑われてはいたが、黒霧の一言によって何人かは確信を得ていた。そして鼠が入った。カリキュラムをいただいたということはそういうことだと考えられる。あるいは……。相澤は一度浮かんだその考えを打ち消した。
「は、敵……?」
「敵!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
 実際のところ、一網打尽されるというのが一般的な考えである。だが、ここは隔離施設で本校とは離れている。そして連絡もジャミングが入っていて全く通じない。これは明らかに周到に用意された奇襲であった。
避難用意と学校に連絡を試す中、相澤は単身有象無象の中に飛び込んでいく。さすがはプロヒーローといったところか、有象無象では全く相澤に歯が立たない。だが、この中にいるのは有象無象だけだはなかった。
 そのすきに避難を進めるのが目的であったが、そうもいかないのが世の中である。
「させませんよ」
黒霧が生徒と13号の前に跳んできてしまったのだ。黒霧はこの敵すべてを連れてきた全身が黒い靄のようなワープゲート人間であると予測できる。集団行動……特に避難となるとばらばらに分断されてしまうのが怖いのだ。黒霧はまさにそれをしようとしていた。
「はじめまして。我々は敵連合。せんえつながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいとのことでして」
その言葉に一同は息をのんだ。敵の目的はオールマイトだったのである。そして黒霧は、敵連合はオールマイトがこの場所にいることを、いるはずだったことを知っていた。つまり先ほどのカリキュラムが割れていた発言は真実味を帯びてきた。だが、黒霧の役目はオールマイトを殺すことではなく、生徒を散らすことにあった。優秀な金の卵を敵の巣窟に落とすことこそ彼の役目だったのだ。先手必勝の特攻をかけた爆豪、切島の攻撃も、危ないと言いながらも簡単に往なされてしまった。そして対抗できる能力を持っているはずの沙保は全く動くことが出来なかった。生徒は散り散りにそれぞれのゾーンに落とされてしまったのだ。そして沙保のすぐそばにいた数名、麗日、飯田、芦戸、瀬呂、障子、砂藤は飛ばされず、この場に残ってしまった。
「皆は!?いるか!?」
「いない!あの靄に跳ばされたんだ!」
「散り散りになっているがこの施設内にいる」
 この時点で黒霧の個性は明らかになった。物理攻撃無効のワープ人間。だとすると確かにこの場において最悪の個性だった。黒霧がいる限り動けないということになる上に倒すこともできないのだ。それでも13号は飯田に託した。今、通信機器が通じないこの状況では通信インフラは死んだようなものである。この場合飯田の足が頼りだった。だが、クラスを置いていくという行動は飯田にとって首を縦に振りがたい行為だったようで、飯田は渋った。
「しかしクラスを置いていくなど委員長の風上にも……」
「いけって非常口!!」
砂藤が飯田の背を押した。
「委員長が助けを呼んで!委員長しかいないんだよ!」
「外に出れば警報がある!だからこいつらはこの中だけで事を起こしてんだろう!?」
「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ!!お前の足でモヤを振り切れ!!」
「救うために個性を使ってください!!」
飯田はぐっと詰まった。
「食堂の時みたく……サポートなら私超出来るから!する!!から!!」
お茶子の言葉に芦戸が頷いた。
「お願いね、委員長!!」
その間も相澤は、生徒たちは敵と戦っていた。そしてきゅぽんと13号の手元のブラックホールが開いたとき、沙保はいやな予感を感じていた。
「せんせ、」
 だが遅かった。その次の瞬間にはブラックホールは13号の背後にあったのである。
「飯田ァ走れって!!」
 はっとしたように飯田は走り始めた。だが、それを見逃す黒霧ではない。もちろん追ってはきたが、障子がその前に動いていた。障子は黒霧を全身で抑え込んだ。だが、それでも黒霧は追ってくる。それにお茶子、瀬呂がカバーに入って、ようやく飯田は外に出ることが出来た。
 その間、相澤は死柄木と脳無にぼろ雑巾のようにされていた。死柄木に肘をやられ、脳無に骨を砕かれ満身創痍となっていた。
だが、その先に沙保は彼らがいるのを見てしまったのだ。相澤が無残にぼろぼろにされているのが目に入る前に、彼女の目にはそれが入っていた。
「蛙水さ、……いっくん?」
 出久と蛙水、峰田の姿が目に入り、沙保は無意識のうちに動き始めていた。そして動き出したのは敵も同様であった。
「あ……、だ、ダメ!!」
 沙保は出久たちに目をやった死柄木を見て走り出さずにはいられなかった。考えるよりも先に体が動いていたのだ。だがこの動きこそが彼女の命運を左右したのである。死柄木は振り返り、沙保に向かって手を伸ばした。
「擦無!」

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