分かれ目のはじまり
その日はただのヒーロー基礎学だったはずだった。
学校内の施設で人命救助訓練をする予定であった。コスチュームを着て、前回と同様に訓練で終わる予定だったのだ。

委員長として張り切る飯田に従い、沙保は葉隠の隣に座っていた。
「バスでどっかに行くって面白いよね。学校の授業でさ」
「そうだね!私、今回こそは頑張らなくっちゃ!前回轟くんに凍らされちゃったし!」
「そうだね。私も頑張らないと、ダメだ」

沙保は先日の戦闘訓練の事を考えていた。
出久、轟、八百万に驚きと敗北感を感じたのは何も爆豪だけでは無い。沙保も言い切れぬ距離を感じていたのだ。沙保には人力を越えたパワーも個性らしき個性もない。確かに彼女の個性、無効化は個性社会において強い個性と言えるだろう。だが、それは発現系にしか使えない個性だ。飯田の様な加速系には通用しない。担任であり、系統が同じ相澤の個性は相手を見るだけで個性を消すことが出来る。そこが違いなのだ。沙保は個性を消すためには触れないといけないというリスクが伴う。
大きな欠点だ。
その欠点を補うために相澤に相談し、新しく注文したのはワイヤーと指先の出る、掌だけ覆う手袋。バールに代わる、重量のある伸び縮みする棍棒。だがこれはまだただの付け焼き刃にしかならない。自分にハマる武器を見つける必要があった。
「沙保ちゃん、そと!見て!」
「え」
沙保は葉隠の浮いたように見える手袋を見ながら、その指した先に視線を動かした。
すると目の前にはとても大きな施設があった。大きな壁に遮られたその施設では処々炎の手が上がっている。
「えっ、すごい!!」
その施設の前で、バスが停車する。生徒たちはバスから降りるように促された。
その、巨大アミューズメントパークの様な施設は嘘の災害や事故ルームというらしい。
文字通り、火事、水難、倒壊、土砂、山岳、暴風大雨の六つのシチュエーションが文字通り体験出来る施設の様で、先程の火の手は火事ゾーンだったらしい。
それを製作者であるスペースヒーローの13号が説明した。
「なんつーか雄英、すごいね」
「たしかに!びっくりした!そこまでするんだって!」
その後、13号はお小言を幾らか言って本題に進もうとした、その時だった。
黒い靄が、生徒たちのいる入り口の直ぐ側の階段の噴水に現れた。妙な違和感にまず気付いたのは相澤だった。
ぞっとするような靄から、直ぐ様有象無象の敵が溢れてきた。カリキュラムを把握していない生徒は、それを訓練の一部として勘違いするが相澤が一喝した。
「一かたまりになって動くな!」
その時、プロヒーローの13号だけがそれに気付いた。生徒は未だに状況が把握できて居らず、ぼんやりしている。
その日、彼らは初めて出会うこととなった。
本物の悪意と。プロヒーローが向き合っているものを。
「動くなあれは敵だ!!」
prev / / next
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -