ぼくらはどこで間違えた?
爆豪勝己は元来クソガキであった。
何でもできる人間であり人に褒められて育った思い上がりの人間である。彼には不幸にも叱る人間がいなかったのである。
沙保はそれを冷めた目で見ていたのであるが、なにも最初からそうだったわけではない。
家の近かった出久、勝己、沙保は所謂幼馴染であり、幼い頃には遊んでいた事もあったのだ。かっちゃん、沙保、沙保ちゃん、いっくん、出久。綻び始めたのは勝己と出久、沙保が同性と遊ぶようになった事から。それが完全に崩れたのは個性発現後、暫くしてからの事だった。
「沙保なんでできねーの?」
「かっちゃんなんでできるの?」
ムスッと膨れながら勝己にそう返すのはいつもの事であり、出久の様に凄いと口に出さず目も輝かせない。齢三歳ながらプライドの高かった勝己はべしんと彼女の頭を叩いてやり返されていたものだ。
だが、個性発現と同時に次第に彼らの距離は開き、勝己は出久を、沙保を苛めるようになっていったのだ。
それからはや十数年。
現在出久と勝己は訓練とはいえヒーローと敵となって闘っていた。
沙保は出久の個性を知らない。
「擦無?」
「何?」
「顔色、悪くない……?」
「大丈夫。ありがと」
心配そうな表情を浮かべる芦戸に沙保は無理に笑顔を浮かべた。
沙保は画面越しの彼らの戦闘から一度も目を逸らすどころか、瞬きさえもしてはいけないような気がしていた。
出久が勝己の足に確保証明のテープを巻き付けた後も彼らの戦闘は止まらない。熱狂していたギャラリーと化した生徒達も彼等の戦闘の不審さに気付いていく。
主に私怨丸出しで出久を傷めつける勝己に。
沙保の目に薄い膜が浮かび上がる。
彼女と同じ持たざる者であった過去を持ち、そうでありながらずっとヒーローで在り続けた出久と、派手な個性を持ち、センスの塊で能力も高い、彼女から見れば全てを持っている勝己の痛いほどの剥き出しの感情が見ている者に刺さっていく。
遂に沙保の膜が流れ出した。
だが、聴衆となっている彼らの目は画面に釘付けであり、静かに涙を流す沙保には気付かなかった。
沙保はなぜ自分が泣いているのか分からなかった。
そしてその時、ヒーローチームの勝ちを告げるオールマイトの声がその場に、そして彼らのいる建物の中に響き渡った。
生徒達は勝った彼らの傷付き方に、また負けた側の無傷さに呆気に取られて画面を見ている。
沙保は画面越しの出久の背を見つめた後ゆっくりと目を瞑り、そして力の抜けそうな足を誤魔化すように静かにしゃがみ込んだ。
prev / / next
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -