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呼び止める柏田を無視してさっさと部屋を出た。事務所のあるテナントを出たところで通りを流していたタクシーを拾い、利一が通う大学の名を告げる。
走り出したタクシーのなか、大学に着くまでのあいだ。ひたすらに頭を働かせ平塚のいうところの機嫌取りの方法について思考を巡らせた。

そうして思いついたのは、なんのことはない。平塚が言っていたものそのままで。
大学へ向かう前に利一が好きだといっていたブランドの店に寄って、そこで利一に似合いそうなリングとバンクルを買い。花屋に寄って、店員に勧められるまま、赤い薔薇の花束を買った。
安い買い物すぎてこんなもので利一が喜ぶとは思えなかったが、年が近い平塚のほうが感覚が似ているかもしれないと思いなおし、タクシーに待っているように告げて買ったばかりのプレゼントを抱え校門に向かう。

薔薇の花束が珍しいのだろう、大学の学生と思わしき奴らがチラチラと鬱陶しい視線を投げかけてくるなか、時計を確認し校門前で待つこと5分。
予想どおり、今日の講義を終えて帰るため出てきた利一を見つけた。
こちらが見つけると同時に相手も俺の存在に気づいたのだろう、驚いたように足を止め、そして、

「ゲッ!!」

ゲッ?

「なにやってんだよ浅北さん!うわーっなにこれ!薔薇!?」
「ええ、利一さんにお渡ししようと思って買ってきました」
「…っ!!!ちょっとこっち来て!!」

バタバタと足音がしそうな勢いで走り寄って来た利一に、無視されずにすんだことで口角が緩みかける。が、いきなり腕を掴まれ人目につかないところへ引っ張り込まれたことで、完全に緩んでしまった。
さっき聞こえた声は幻聴として処理しよう。
薔薇の花束がお気に召したということだろうか。たまには平塚でも役に立つものだ。

「大胆ですね」

人目を避けた路地に入り、周囲をキョロキョロと見渡している利一の頬に片手を添えて鼻先に唇を落とせば、照れているのかドンと胸を押された。
本当なら抱き締めたいところだが、抱えた薔薇が邪魔でそれがもどかしい。

「違うっつーの!ただでさえ目立つってのに、薔薇の花束持ってあんなとこ立ってるとか意味わかんねえよ。もー…勘弁してよ…」
「恥ずかしいんですか?」
「それもあるけど、そうじゃなくて…。てかホントなにしに来たんだよ…」

じと目で睨みつけられ、どうも様子がおかしいことに気がついた。照れ隠しでの拒否ではない様子に、自然とこちらの顔も翳ってしまう。

「なにしにって…利一さんが電話もとってくれないし、メールをしても返してくれないんで、直接会いにくるしかないじゃないですか」

やはり薔薇の花束などでは、利一の機嫌をとることなど出来ないではないか。どうせもう一つのアクセサリーの効果も知れたものだ。ポケットのなかで出番を待っていたプレゼントは、新しい主人の手に渡ることなく、ゴミ箱に捨てるしかない。

「もしかして浅北さん、一人できたの?」
「ええ、まあ」
「アホか!!!!!!!」

関西人のようなツッコミで胸倉を掴まれ、一瞬なにが起こったのかわからずキョトンとしてしまった俺に、利一の顔がグイッと近づけられた。
至近距離でみる恋人の怒った顔に、ああ、やっぱり可愛い、などと思っていると見据えた目がさらにツリ上がり、ギロリと睨みつけてくる。

「なに笑ってんだよっ」
「怒った顔も可愛いですね」

ついつい本音を口にすると、さらに凶悪な顔になった相手が思いきり体を揺らしてくる。
揺さぶりがかなり激しいため、視界はグラグラと乱れ視点が定まらない。

「だぁあああああっっ!なにを暢気なっ!あんた自分の状況わかってんの!?」
「利一さんに胸倉を掴まれて、怒鳴られてますね」
「その状況じゃねえっ!!!」

寄越される質問に答えながら、なんとか折角の可愛い表情を見逃さないよう目を眇めたり逆に見開いたりと試みていれば、急に手が離され代わりに額への一撃をくらった。
バシリと音が鳴り、ジンと痛みが広がって初めて利一の手に額を叩かれたことに気がつく。



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