拍手御礼 | ナノ


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好きだと伝えなければ、いまもおまえは、俺の傍にいたんだろうか。



「なに、あんた。ひっどい顔ね」
「あー…、ちょっと寝不足で」
「今日はK社との大事な商談があるってのに、夜遊びはほどほどにしなさいよ」
「遊んでませんよ。昨日は仕事終わってすぐに帰りましたって。ただちょっと夢見が悪くて、起きたら寝れなくなって。寝酒飲んでたらそのまま朝になってたんですよね…」
「怖い夢でも見たわけ?」
「まぁ…そんなところです」

最近、昔の夢をよく見る。
それは決まって5年前。大学の卒業式の日のことで。

東京の企業への就職が決まっていた俺。
地元の企業への就職が決まっていた、あいつ。

高校の時に知り合ってから7年。
あいつを好きになってから7年。

ずっと好きで。好きで。好きで。

このまま離れてしまうことに耐え切れなくて。
気持ちを隠しておくことに耐え切れなくて。
俺は、俺たちの友人という関係を変えたかったんだ。

好きだと告げた。
あいつはひどく戸惑った顔をして。そしてふざけるなと怒鳴って俺の頬を殴りつけた。
裏切られたような泣きそうな顔をして…。

それ以来、あいつとは会っていない。

傷つけるつもりなんてなかった。
俺は、あいつが好きだっただけなんだ。

「11時にはK社に向かうから、それまでにその顔なんとかしときなさいよ」

珈琲の入った紙コップを手渡され、苦笑しながら頷いた。
女というだけで下にみられることが多い社会で、32歳という若さでバリバリ仕事をこなすこの女上司は、みんなから怖いだとか厳しいだとか言われてはいるけれど、こういうさりげない気遣いをみせてくれる。

気性が荒くて短気。
そのくせお人好しで情に厚い。
あいつと良く似た性格。

「川戸さん」
「なに?」
「俺と付き合いませんか?」
「いやよ。他に好きな相手がいるような奴と、付き合うようなマゾい趣味なんてないわ」
「他なんて、別にいませんて」
「嘘つくならもっと強かになって出直したほうがいいわね。かわり口説く暇があるなら、本人に言いなさいよ」
「言いましたよ。で、振られました」
「あらら、それはご愁傷様」

好きだと告げて、親友としての居場所すらこの手で壊した。
言わなければよかったと、何度自分を責めたか知れない。

あいつをなくしてしまうくらいなら、あのとき、想いを打ち明けることなどせずに、友人として傍にいられることを選ぶべきだったのだ。
例え自分のモノにならなかったとしても、それでもきっと、いまでも、あいつは俺の隣で馬鹿みたいに楽しそうに笑っていたのに。

5年経った。
それでも俺はあいつが好きで。
もし、あいつと昔のように友人として笑い合うことが出来たなら。
今度はこの想いは秘めたまま。間違えないで。
胸の痛みを隠しながら、あいつの結婚式に、笑いながらおめでとうと言えるように。



― END ―





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