100万打リク | ナノ


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そのあとで優しく撫でる動きの愛撫に変わると、一瞬走った痛みが今度は痺れるような疼きをもたらし、結局文句は呑み込むはめになった。
緩急をつけた愛撫に巧みに追い立てられる。神田の手はどこをどのようにすれば高梨が気持ちいいかをすっかり把握していて、絶妙なタイミングで絶妙な刺激を与える相手に、高梨のそれは限界に近く追い込まれ、

「…く、そっ」
「うん…オレも、もう限界…」

ヤバイ。そう思った瞬間、口をついた悪態に吐息交じりに笑う神田の声を耳元で聞いて、爆ぜた。
普段のちゃらんぽらんさからは想像つかないほど、こういったときの神田の声は艶めいてエロい。その声を自分が出させているのだと、そのなんともいえない感覚にあと一歩の一歩を後押しされてしまった。
神田の手の内にぶちまけた白濁。そして自分の手に感じる濡れた熱の感触。
手のひらだけでは受け止めきれなかったものが手首へと垂れる。他人の精液が伝う感触など、普段の高梨であれば、ありえない、気持ち悪い、と鳥肌ものだが、神田相手にそういった感情はわいてこない。
いまあるのは先にいかされた敗北感と、けれど互いに与え合った快感への、こういってしまうのはなんだが、満足感。そんな感情がごちゃまぜになった感覚。

「んー、ティッシュないや」
「やめろ、アホか!」
「あ」

キョロキョロと周囲を見回していた神田がそう呟くと、濡れた自分の手を見て口元へもっていこうとする動きに、慌ててその手首を掴む。咄嗟に出してしまったのが右手。つまり利き手なわけで、ベチャリと神田の手首に神田の出したモノがついてしまい、その感触に目の前の顔が思い切り歪んだ。

「サクラちゃん…ないわ…」
「ないのはオマエの行動だろ。なに舐めようとしてんだよ」
「えー、別にいいじゃないー。だって拭くものなかったしぃ」
「手首についただけで露骨に嫌な顔したくせに」
「当たり前でしょ!自分のもんなんて気持ち悪いもん。でもサクラちゃんが出したものなら、オレは美味しくいただく自信がありますね!」

ドヤ顔でなぜか誇らしげに言い切る相手に、軽い頭痛を覚える。コイツは阿呆だ。
射精後の倦怠感と神田に対しての脱力感に襲われ、これ以上なにか言う気にもなれず着ていたシャツを脱ぐとそれで自分の手を拭い、相手にも差し出す。

「あらやだ、積極的」
「これで拭けって言ってんだよっ」

なにを勘違いしたのかおもむろに抱き着いてこようとする神田の頭を殴りつけて立ち上がり、何かあった時のためにと置いてある替えのシャツをクローゼットから引っ張り出して羽織りなおす。
振り返ると、なにやらブツブツと言いながら手を拭っている相手が目に入ったが、ここでなにか言い返したところでくだらない言い合いに発展するだけだと、あえての無視を決め込み腕にはめている時計へと目を落とした。
13時20分。
14時にはフロントになっている金融会社へ出向く予定が入っている。あと10分で迎えの車が到着するはずだ。

「三津橋社長のところに行くんだっけ?」
「ああ」
「あの人、サクラちゃんのこと気に入ってるからなぁ。気をつけてよね」
「はぁ?なにを気ぃつけんだよ」
「貞操はオレの為に守ってくださいねって話」

沈黙。あまりのバカバカしさに言葉もない。
ハァ、と思い切り溜息をついてジャケットを腕に引っかけて部屋を出た。ドアが閉まる直前、神田がなにか喚いていたが知ったことじゃない。
野郎にいいようにされるような屈辱なんて、相手を殺してでも回避するだろうというほどに、高梨にとってはありえない状況だ。それをなんだかんだ言いながらも神田にだけは許している。
どんなに悪態をつこうが言い訳をしようが、自分のなかの神田に対する想いはとっくにわかっている。わかっているからこそ、悔しいし腹が立つし、素直に認めたくない。
そう、素直じゃないのだ。そこは神田だって承知しているはずで、けれどアイツはわかっていない。
高梨にとって神田は特別なのだということを、ちゃんと理解していない。
神田との関係をもう一歩進めることへの引っ掛かりはもしかしたらそこなのだろうか。

「…むかつく」



― END ―




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