100万打リク | ナノ


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自分への言い訳と形だけの抵抗。気持ちの部分では神田を受け入れているというのに、なぜか毎度のように繰り返してしまう。
素直に応じることが出来ないのは、悪友じみた関係が長かったせいなのか、それとも別の理由があるからなのか。自分のことだというのに、いくら考えても納得できる答えは出てこない。

「なに考えてるの?」
「…別に」

じっと見据えてくる神田の目を見返す。ここで逸らすと執拗な問い詰めがくることは経験上学んでいる。それにいつも冗談めいた態度ばかりのこの男が、実は自分との関係においては驚くほど繊細なところがあることを知っているからだ。
そのことに気づいたことが、互いのそれまでの関係を変えるきっかけになったといえるだろう。
自分にだけ向けられる感情を心地よいと感じた時点で、心はこの男のところにあったのだ。

薄く硬そうな見た目に反して、意外に柔らかい唇に今度は高梨の方から触れる。一瞬の戸惑いの後に緩く持ちあがる口角の動きを感じ、次にくる言葉の予測はついている。

「仕方ないなぁ…誤魔化されてあげるよ」

笑い混じりに呟かれる言葉。予想通りと漏れる笑いは深まる口づけに消され、代わりに離れた隙間を埋めるよう強く抱き寄せる。
布越しに伝わる熱に胸の奥がざわつくのを感じ、もどかしさに荒っぽくなる手つきで神田のシャツをまくり、背中に手のひらを這わせた。サラサラとした手触りが神田に対して高梨が気に入っていることの一つだ。

「さくらちゃん、くすぐったいって…」

文句をいいながらも嫌がる素振りはみせず、大人しくされるがままになっているあたり、高梨がこうして触れることは神田にとってまんざらでもないのだろう。とはいえ以前、そのまま尻に手を這わせたときには、さすがに本気の抵抗にあったのだが…。

「突っ込まれる決心はついたのかよ」
「冗談でしょ。それはこっちのセリフだってば」
「いい加減、諦めろよ」
「さくらちゃんこそ、いい加減折れてくれない?」

スラックスの上から尻へと這う神田の手に、それまで撫でていた背を容赦なく捻り上げる。痛い!という色気のない悲鳴が上がり、恨みがましい視線が寄越されたがさらに捻る力を強めれば、しぶしぶといったように尻から手が離された。
こういった関係になってからもうずいぶんと経つが、実のところ最後までに至ったことは一度もない。
高梨も神田も、それぞれが抱かれるというポジションになることを断固として拒否し続けているせいだ。
高梨に言わせれば突っ込まれるなんて死んでも御免だ、といったところだが、それは神田にしても同じらしく、互いに引かないのだから先に進みようもない。

「なんかオレたち一生シコり合いで終わりそうな気がするんだけど…」
「お前が折れりゃ問題ねぇだろ」
「お互いが折れたくないから問題なんでしょうがー」

ごもっとも。

「てかなんでさくらちゃんは、そんなに抱かれたくないわけ?」

グイッと両肩を掴まれ、拗ねた目に睨まれる。なぜと聞かれたところで、嫌なものは嫌なのだから仕方ない。

「嫌だから」
「だから、なんで嫌なのか聞いてるんでしょ」
「嫌だから」
「あのねぇ…もうっ、子供じゃないんだからちゃんと理由を言ってよ」
「じゃあお前はどうなんだよ」

どうして一方的に詰められなければならないのか。立場的には神田も同じなのだから、人に理由を言えと詰め寄るくらいならさぞ自分には立派な理由があるのだろう。それをぜひとも聞かせてもらいたいものだ。

「言ったら抱かせてくれる?」
「無理」
「じゃあ言わない」
「はぁ?」

どっちが子供だよ。その反応こそ子供じみている。あまつさえプイッとそっぽまで向くのだから、こいつの年齢はいくつなのかと三十路手前の男を眺め、思わず溜息が漏れそうになった。
とはいえれっきとした理由があるのなら、それを聞いてみたいという気持ちは強い。こうも神田が抱くという立場にこだわる理由はなんなのか。


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