100万打リク | ナノ


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忠犬とそのご主人様が顔を見合わせ肩を竦めるのを視界の端に見ながら、やるせない思いでフィルターを噛んだ。
現在傷心中の俺の目の前でよくもまぁイチャイチャと。というのは偏ったビジョンからの見解なのだろうが、恋人同士が一緒にいるという光景だけでも、現在の俺の精神状態では大いにダメージを与えてくれる。

「世の幸せカップルなんて、みんな泥の沼にズッポリはまっちまえばいいんだ」
「アカンわ、こいつ」
「どうせ俺はダメな子ですよ。ダメすぎて恋人にも見捨てられるダメ親父だよ」
「…ああもうウザイ」
「俺だって自分がウザイわ!!」
「いきなり逆ギレかっ。人に八つ当たりしてんやないわっ」
「八つ当たりしやすそうな顔してる、おまえが悪い!!」
「上等やこのダメ男!!」
「ダメオォオオオオオ!?」
「会いにいけばいいんじゃない?」

互いにデスクを両手で叩き椅子を蹴って立ち上がった俺と関のあいだに、吉澤の抑揚のない声が割り込んだ。
第三者の介入に戦意が逸れた隙をついて、吉澤が関を抱え込むようにして俺から引き離す。
まるで危険なものから遠ざけるかの行動に、狂暴なのは俺じゃなくてそっちの腕んなかの男だろうといつもなら言ってやるところだが、そんなことよりも。
吉澤が発した一言に後頭部をガツンと殴られたようだった。

「その手があったか…」

どうしていままで、そのことに気づかなかったのか。
吉澤の言うとおりだ。連絡がないとこんなところでウダウダ悩んでいるくらいなら、直接会いにいけばいい。片道3時間の距離だが、仕事が終わってすぐにこっちを発てば夜には向こうにつける。
どうせ暇だからとここ最近前倒しで仕事を片付けていたため、土日にまでするような急ぎの用もない。
幸い明日は金曜日だ。学校が終われば時間は十分にある。

「あ、立ちなおったっぽい」
「単純な奴やなぁ」

呆れた二人の声も、明日の夜のことで占められた頭のなかには届かなかった。






金曜日。週末ということで二連休を前に学生たちの表情はどことなく明るい。
一日の締め括りであるHRが終わると、生徒たちは部活に行くものや、放課後の過ごし方について話し合っているもの、ただ、ダラダラ友人たちと語り合っているもの、一目散に教室を飛び出していくものとそれぞれだ。
俺はというと、もちろん一目散に教室を飛び出した。誰かに引き留められる前にと帰り支度をさっさと済ませ、お先です、と声をかけて一番に職員室を出る。
いつもは徒歩で出勤しているが、今日は車で来ていた。
聖アリア学院は市内から離れた山のなかにある。佐野が仮住居として与えられたのは、学生寮の一室だということを昨日、吉澤が教えてくれた。
アリアの学生寮は学校の敷地内にある。電車で行くよりは車で行ったほうが交通の便がいいということで、学校を出てそのまま向かえるように、普段は自宅の駐車場に置いたままになっている自家用車で出勤したのだ。
職員用の駐車場に向かう途中、吉澤と出会ったが、軽く頭を下げるだけでなにを言うでもなくすれ違う。
俺がこれからどこに向かうのか知っているだろうが、そんなことはどうでもいいというように触れてもこない。基本、ご主人様以外には興味を示さない男なのだ。
車に乗り込み、一応と佐野の携帯に電話をかけてみたが、案の定、聞き飽きたアナウンスが流れるだけで、最後まで聞くことはせず助手席に放り投げる。
よし行くか、と誰にいうでもなく呟いて、3時間のドライブに出かけるべく車を発進させた。

高速を走っているあいだに空はすっかり暗くなり、下道に下りる頃には雨まで降り出した。
対向車のヘッドライドが雨で滲み、夜の暗さと雨のせいで視界はすこぶる悪い。
市内を抜け山道にさしかかると頼りない外灯が申し訳程度にあるだけで、さらに辺りは見えにくくなった。
雨のせいで予定していた時間よりも遅くなったものの、目的地に到着したのは午後10時前。この時間であれば夜行性の佐野がすでに就寝中という可能性は低い。
来客用の駐車スペースに車を停め、きつくなった雨のなかを傘を差して歩く。雨が降っているに加え、時間が時間のためか辺りに人の気配はなかった。


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