100万打リク | ナノ


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「ねぇ、日に日に荒んでいってるよ、あの人」
「ほっとき」
「うん。あ、チラチラこっち見てる」
「目合わしなや。目ぇ合うと襲い掛かってきよるからな」
「関さん。関さん」
「なんや利一、うっさいで。本もゆっくり読めへ…うわっ!」

俺の男前すぎる顔を至近距離から見た衝撃で椅子から転げ落ちた関を見下ろし、ザマアミロとばかりに鼻を鳴らす。
本人に聞こえる声で、散々に人を馬鹿にするからそういう目に合うのだ。
床で強かに腰を打ちつけた関が、腰痛持ちのご老体のような格好で起き上がるのを、忠犬よろしく抱き起こす吉澤が、普段はぼんやりとした目をきつく攻撃的に眇め睨みつけてきたが、いまの俺にはその程度のことは屁でもない。
ドラクエでいうレベル99の勇者がスライムの一撃をくらった程度のことでしかない。
なにせ勇者ヤシマはこの二ヶ月間、魔王との戦いに明け暮れていたのだから、スライムごときの攻撃など「え?いまなにか当たりましたか?」てなもんだ。

「ったぁ…。いきなり汚いツラ近づけんなや。拒絶反応で吹っ飛んだやろ。俺に日々の耐性がなかったら、いまごろショック死してたところやで。よかったな犯罪者にならんで」
「もっと言って関先生。佐野ツンのようにもっと冷ややかに責めたてて」
「うわーキモ!なにこれ末期?利一、離れや。変態が感染する」
「ダメだよそんなこと言っちゃ。八嶋先生が余計に喜ぶから」
「そんなん言うたかてキモすぎるやん。言いたなるやん。関西人の血が騒ぐやん」
「うーん…」

こいつら、どんだけ俺批判が好きなの?
まぁどんだけ攻撃されようと所詮はスライム。勇者ヤシマの敵ではないけどね。
余裕の微笑みで鼻歌歌いながらスキップだって出来る。なんなら目の前でしてやってもいい。

「佐野先生も、この変態さが嫌になって別れたんやろ」

スライム関の痛恨の一撃が勇者ヤシマの心にきまった。スライムのくせに毒針を隠し持っているなんて、なんて卑怯なスライムなんだ。
やめて!ヤシマさんのHPはもう0よ!!!

「って、別れてない!勝手に人を振られたみたいに言うのやめてくれます!?」
「なんや別れてへんのかいな。とっくに振られたもんやと思ってたわ」
「別れ話どころか、普通の話もしてねぇっつの」

そうなのだ。一ヶ月が経ち二ヶ月が経とうというのに、相変わらず佐野からの連絡はない。
メールの返事はこないし、電源はいつかけてもオフになったまま。
生きているのか死んでいるのかそれすらもわからない。いや、生きてはいるだろう。
姉妹校にヘルプで行っているのだから、職員になにかあればすぐにこちらへ連絡がくる。それがないということは、佐野は普通に仕事には行っているわけで。それなのに俺には連絡がないということはやっぱり、

「恋人?あー…いるんですけど、最近ウザくて。離れてるのいい機会だし自然消滅でも狙おうと思ってるんですよね」By佐野。
アリアの職場仲間と飲みに行って、ちょっと可愛い音楽教師なんかと話が盛り上がり、なんだかんだでいい雰囲気になって、可愛い音楽教師に「恋人はいるんですか?」とか聞かれちゃって、そしてさっきの佐野の台詞に…。
うわぁあああっ酷い!酷いわ佐野ツン!!

「佐野先生が飲み会いって盛り上がるとかないと思う」
「てか佐野先生のキャラちゃうし」

呆れた目で同時に二人が呟く。

「俺の脳内を勝手にのぞくな」
「いや、思いっきり口に出して言うてたで」
「……あ、そう」

盛大な溜息を吐き出して椅子に座り煙草に火をつけた。職員室は禁煙だが職員たちが帰ったあと、喫煙者にとっては暗黙の了解で咎める者はいない。
現在、20時過ぎ。職員室に残っているのは俺と関と吉澤だけだ。関も煙草を吸うし、いまも関のデスクの上には灰皿代わりの空き缶が置かれている。
吉澤は非喫煙者ではあるが大好きな関が吸っているのだから、関の手前文句を言うことはない。


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