100万打リク | ナノ


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「また繋がんねーしっ」

携帯に電話をかけても常に電源オフ。メールを打っても返事は一度も返ってこない。
そんな状況がかれこれ一ヶ月。
最初は慣れない場所で大変なんだろうとか、忙しいんだろうとか、そうやって自分を納得させていたが、31日ものあいだ連絡一つないっておかしくないですかね。
佐野という人間はマメに連絡をとるようなたちではない。好きだなんだと表層に表すことはしない男なのだ。
たまに本気で、俺のことを好きなの?と疑問に思うことがあるくらい冷たい態度の連発で、むしろ嫌われてる?とか思ったりなんかしたり…。
あ、ヤバイ。へこんできた。
いやいや、そうじゃなくて。まぁそんな相手だけれど、これでも上手くはいっていたわけで。ちゃんと好かれているんだって思わせてくれることだってあったわけで。
とにかくだ、とにかくなにが言いたいのかといえば、佐野はツンデレみたいなね、そんな感じなんですよ。
だから100歩譲って連絡がなかったことは佐野だし、ということにしてもいい。
普段から用事があるとき以外は、電話やメールを滅多にしない奴なのだ。だけど今回はいつものように学校へ出勤すれば会えるわけじゃないし、ちょっとくらいはと思わないでもないし、それに…
吉澤には電話してんじゃねーか!!
なにが腹が立つって、そこが一番腹が立つ。
彼氏ほっぽっといて吉澤かよ!みたいなね。普通、俺だろ!みたいなね。
ほんとなに考えてんだ。

「ああーーーっ、わけわからん!未確認生命体かよっ。取り扱い説明書の発行元はNASAですか!?…っと、悪い悪い。部長に言ったんじゃないから。あ、飲みますか?」

突然叫んだ俺に膝の上で丸まって眠っていた部長が、ビクリと体を揺らして飛び降りてしまったのに、詫びながら猪口にいれた冷酒を差し出し、手招きして呼び戻す。
白に黒のブチ模様が入ったデブ猫が、さっきの機敏さは見間違いかというのんびりとした動きで側に寄ってくると、畳の上に置いた猪口に鼻を近づけ匂いを嗅ぎ、美味そうに喉を鳴らしながら見る間に一杯の酒を飲み干してしまう。
空になった猪口に二杯目を注ぎながら、ついつい溜息を漏らすと大きな目で俺を見上げた部長が「どうしたんだ。悩み事か?」と聞いてきた。

「恋人がね、冷たいんですよ。もう一ヶ月も経つのに連絡の一本もない」

自分の猪口にも酒を足すとグイと飲み干す。部長は俺から視線を外し、注がれた酒を舐めている。
男は余計なことは語らず、黙って男の愚痴を呑み込む。そんな部長の男気に感謝しながら、杯を傾け胸の内を吐露することにした。このままじゃ眠れる気がしないし、黙って聞いてくれている部長の存在がありがたい。
部長なら関のようにファイルやら時計やらを投げつけたりしないし。

「でもまぁ忙しいのかもしれないしね、それはいいんですよ、でも他の男には電話してるって知って。なんかそれが地味に傷ついたっていうか。さっきも電話したんですけど、電源入ってないし、あいつ、なに考えてんだか…」

佐野は俺のことが嫌いになったんだろうか。今回をいい機会だと思って距離をおこうとしているとか?
それとも好かれていると思っていたのは俺の勘違いで、最初から佐野は俺のことなんて好きじゃなかったのかもしれない。

「…ダメなんですかね、俺ら」

ついつい弱音が漏れた。口に出せばその予感はリアルで、胸のなかに込み上げる想いを掻き消そうと酒を呷る。
部長がいつからか俺を見上げていた。目が合うとニャァと一声かけられ、慰められているのかと思うと、余計に溜息が漏れた。
部長の前足が俺の膝に置かれ、金色の目でじっと見据えられる。部長の優しさがいまは辛かった。見つめ返すことが出来ず視線を逸らす。

「いっ!」

膝に鋭い痛みが走り、驚いた拍子に手に持っていた猪口が畳の上に落ちる。
残っていた酒が広がり慌ててティッシュを取りに立つと、部長が零れた酒に一目散に飛びついた。

「……え、ちょっと。もしかして、さっきから酒ねだってただけ…?」







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