100万打リク | ナノ


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一ヶ月。週になおせば四週間だ。
ありえない。一週間ならまだわかる。そういうこともあるだろうと思うさ。
それが一ヶ月だ。週と月の差はでかい。
一ヶ月あれば週間ジャンボのヒーローも、必殺技の一つでも覚えて一回り大きく成長するってもんじゃないか。
一ヶ月っていうのはそれだけの価値があるわけで、それだけの時間が流れてるってわけで。
それなのに、

「佐野ツンから連絡がないんだけれどもぉおおおおおお!」
「はぁ!?」
「だからぁっ佐野先生から電話もメールもなんもこないんだってっ。どぉーゆうこと!?ねぇ!どういうことなの!?」
「あぁーっもう!うっさい!!」
「あだっ」

向かいのデスクからぶん投げられた分厚いファイルが顔面に直撃した。これは痛い。なにがどう痛いって、余所見していて電信柱に顔から突っ込み鼻がポッキリと折れたかもってなくらい痛い。
凶器といえるファイルを投げつけたのは同僚である、英語教師の関だ。
午後8時。職員室には俺、八嶋と関。それから関の背に子泣きジジイのようにくっついているデカイ図体の吉澤の三名がいるだけで、他の教員たちはもうとっくに帰ってしまっている。
そんなわけで赤くなった鼻から垂れた鼻血を、優しくティッシュで拭いてくれるエンジェルは一人もいない。
怪我の手当てが本職の、俺のエンジェルは一ヶ月も前から不在なのだ。まぁこの場にいたとしても「阿呆か」てな冷ややかな目を寄越すだけで、どちらにせよ鼻血は自分の手で拭うしかなかったけれども。

「佐野先生ならこの前、電話で話したよ」

関の後ろで子泣きジジイ。もとい、吉澤がのんびり口調で衝撃発言をかましてくれた。
聞き間違いかもしれない。そんなわけがない。あるはずない。

「誰が誰と話したって?」
「俺が佐野先生と」
「うがぁああああっ!!!」
「五月蝿い言うてんのがわからんのかコノボケ!!!」

分厚いファイルの次は硝子製の置時計が眼前に迫り、慌てて首を引っ込め寸でのところで襲い来る死弾を避ける。
あんなもんが直撃すれば、鼻血程度で済むわけがない。確実に死ぬ。
背後で聞こえた恐ろしい破壊音に固まる俺をよそに、殺人未遂犯の関は涼しい顔でキーボードを再び叩き出した。
吉澤は関から離れ、取ってきたチリトリとホウキで飛び散らかった時計の残骸の後始末をしている。
俺はというと、これ以上なにか言えば次こそ永遠に黙らされる危険を回避するため、無言で職員室をあとにしたのだった。






事の起こりは一ヶ月前。
俺が勤務する籐靖高等学校という男子校には聖アリア学院という姉妹校がある。
どういう関係で籐靖のような公立校がお嬢様学校と名高い聖アリア学院と仲良く手を結んでいるのかは俺の知ったこっちゃない。
なのでそのへんの説明は省くとしてだ、その聖アリア学院の養護教諭に欠員が出たという連絡が籐靖に入ったのが一ヶ月前。
聖アリアの養護教諭が交通事故で全治三ヶ月。そのあいだ、二人いる籐靖の養護教諭のうち一人をヘルプに回して欲しいといってきた。で、選ばれたのが俺の可愛いマイハニーである佐野先生で、そこまではいい。仕事なのだから仕方ない。
学校で会えなくてもその他の時間でその分なんて埋めればいいと、俺は快く送り出してやったわけなのだ。
なのにどうして、


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