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「なっ…!」
やっと状況が把握できたのか怒鳴ろうとするも、結局は口をパクパクと動かすだけ。自分のためにしたことだと思えば、怒ることも出来ないといったところなのだろう。
どんな理由があれ、いきなりキスをしてきた相手なのだから、殴るくらいのことはしてもいいのに。そういうところが岸田の甘さであって、優しいところなのだ。
「それから、随分と大人びて見えますけど、雪子嬢は中学2年生でしてね。まだ14歳なんですよ。うちの組長にロリコン趣味はありません」
「中学、2年生?」
「はい」
「14歳?」
「そうです。ああ、今年から3年生ですね」
佐々木雪子、14歳。都内の私立中学校に通う、れっきとした女子中学生だ。
最近は中学生でも化粧や服装でグンと大人びて見える子が多い。岸田が勘違いしたのも仕方のないことだ。
「安心しましたか?」
尋ねれば素直に頷きはせず、別に、といったつれない返事だったが、けれどその顔を見れば答えは語らずとも知れる。
不安な色はすっかり消え、気まずそうではあるけれど、その表情は穏やかなものに変わっていた。
胸の奥、ツキリとした痛みが柏田を責めているかで。浅北にロリコン趣味はないけれど、自分には自虐趣味でもあるのかと思う。
さんざん扱き使われ、想いに耐えてきたあいだに、ドMの扉でも開いてしまったのだろうか。
「まぁ、いいか」
岸田という相手に出会って浅北は変わった。これからもきっと変わっていくだろう。
岸田だってそうだ。いまはまだぎこちなく不安定な関係ではある。些細なすれ違いや価値観の違いに悩むことだって多いはずだ。
その度に今回のように傷つくことだってあるだろう。
それならその度に自分がこうして支えてやればいい。
岸田が浅北と共に歩む道を望むなら、それが岸田にとっての幸せであるなら、自分はその幸せを守ってやりたい。
この想いは刃だ。
大切な人たちを守り抜くための。
「なにか言った?」
「お送りしますよ。縁さんの家まで」
― END ―
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