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「佐野先生、いつからそこに?」
「秘書に女医にエロエロじゃね?のあたりですかね」
またタイミングの悪いところから聞いていたものだ。
なにか激しく誤解されていそうな気配に、違うのだと弁解しようにも野田が隣にいてはそういうわけにもいかず、ハハ、と曖昧に笑うしかない。
佐野もそれ以上はなにも言わず、用事があったのか野田に仕事上の連絡を告げるとすぐに職員室から出て行った。
「セーフ!佐野のそっくりさんが、なんて話題にしてんの聞かれなくてよかったわ」
なにがセーフだ。まったくもってなにもよかない。
「っいて!…んだよっ、なんで殴るかなオイッ」
「なんでもねえよ!」
ただの八つ当たりだバカヤロウ。
あれから三日。別に避けられるわけでも無視されるわけでも、はたまた問い詰められるわけでもなく、普通な日々だった。
最初のうちは怒ってんのか?
それとも呆れてんのか?
なんてビクビクしながら佐野の様子を窺ってはいたものの、三日も経てば気にしてなかったのかと納得するに十分な時間で。お互いになにも言わず、このまま流す方向でいけたんだと思っていたのに。
その考えが甘かったのだと気づいたのは、それからすぐあとだった。
「これやるわ」
珍しく家に来たと思えばこれまた珍しいこともあるもので、綺麗にラッピングされた包みを佐野に差し出された。
誕生日でもクリスマスでもないのに、プレゼントなんてなんの心境の変化だと訝しる気持ち半分、思わぬプレゼントに喜ぶ気持ち半分で包みをさっそく開いた俺、驚愕。
文字通り、驚愕。
「……あのー…すみません。佐野先生。コレって、なんでしょうか?」
「オナホール」
恐る恐る手のなかのブツを眺めながら尋ねると、はっきりきっぱり即答で返された。
そんなもんこのパッケージにデカデカ書かれた文字を読めば、小学生でもわかる。俺が聞いているのはそういうことじゃなくて。
「なんでこんなモン、俺がもらわなならんの?」
「リアル追求で出来たもんらしいし、ちょうどいいんじゃねえの。女とヤリたかったんだろ?結構高かったんだし、大事に使えよ」
「使うか!!!」
なにが悲しくてオナホールで抜かなきゃなんねえんだよ。
どんな屈折した怒り方だ。
普通、こんなもん自分の男にプレゼントするか。
いや、佐野に普通を求めることがそもそも間違っているのかもしれないけれど。だからといって、オナホールはない。オナホールはないって。
「くだらんもん買ってきやがって…」
「俺のケツじゃ物足りないのかと思ったんで」
しれっと言ってのける言葉に、俺の極太な堪忍袋の緒も我慢の限界を訴えた。
なにが物足りないだ。
付き合い出してから半年。散々逃げ倒して、佐野がようやく抱かれることを承諾したのがつい最近のこと。
その挙句、その一回きりでいまに至るまでずっとお預け状態だったんだ。物足りないもなにもそれ以前の問題だろうが。
「おまえね、いい加減にしないとさすがに怒るぞ」
「…っ!」
二の腕を掴んで無理やり引き寄せれば、華奢な体は難なく胸のなかに倒れ込んできた。突然の行為に驚いたように目を瞠るその顔を覗き込み、なにかを言おうと開いた口に舌を滑り込ませ、強引な口づけに変えてしまう。
奥に逃げた舌を捕まえ吸い上げては絡め取り、口腔を舌で犯しながら腕に抱いた体を畳の上に押し倒した。
「…八嶋、先生?」
「大事に使ってやるよ」
「なに言って…っ」
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