キリリク | ナノ


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「八嶋せ〜んせっ」

なにやら嬉しそうな、嬉々とした声が聞こえるなりガシッと肩を抱く腕に顔だけで振り返れば、同僚の野田のにやけ顔がすぐ間近にあった。
気色悪いと肘で抗議の意味を込めて腹を突くも、ご機嫌な野田は気持ちの悪い笑いをやめようともしない。

「鬱陶しいからひっつくなっての」
「つれないこと言うんじゃねえよ。せっかくおまえにも、おもしろいもん見せてやろうと思ったのによ」
「なんだよ…」

コレだよと焦らすこともせず机の上に一冊の雑誌が置かれる。
雑誌の名前よりもまず先に目がいったのは、セーラー服姿の女が短いスカートで足を開いて映っている、俗にいうパンチラ写真だ。
女子高生のイケナイ性事情☆
なんていまどき、エロDVDにもないだろうと思わずツッコみたくなるタイトル。中身を見なくともこれが男のバイブル、エロ本であることは容易に知れる。
別に珍しくもないけど、それをどうして高校の職員室でお目にかからなければならないのか。てか、エロ本を学校に持ち込んでいること自体問題だが、それが女子高生モノとなればさらに大問題だ。
あのうるさい学年主任にバレようものなら、笑いごとではすまされないだろうに。
まぁそんなことをわざわざ俺が忠告してやる義務はないわけで、

「なに、おまえ女子高生系?」

からかう調子で教師の嗜好にしては際どいそれを笑ってやった。

「違うっての。コレさっき2年から没収してきたんだけどよ。えーっと…あ、コレコレ。この子。なんか佐野センセに似てね?」

違うって言いつつ、ちゃっかり見てんじゃねーか。
パラパラと雑誌を捲る野田を呆れた目で見るも、いきなり予想もしなかった名前が出たことに、煙草を取ろうと白衣のポケットに突っ込んだ手が固まる。

「誰が誰に似てるって?」
「だから、この子が佐野に似てるって言ってんの。ほら、この冷たそうな目元とかさ〜」
「………野田」
「あ?」
「くだらんこと言ってねえで、とっととコレ捨ててこいよ。金田のじいさんに見つかったらうっせーぞ」

雑誌を閉じて突きつけるように渡せば、ノリの悪い反応が気に入らなかったらしく、拗ねたように口を尖らせ、雑誌を抱えたまま野田が隣の椅子にドカリと座ってきた。
いい年した男が口を尖らせて拗ねたところで気持ち悪いだけで、可愛くないぞ野田。

「なんだよ、興味ねーの?」
「そうだな。制服着てるようなガキにゃ興味ねーよ。女ならフェロモン垂れ流してるくらいの美人秘書とか女医とかだろ。セーラー服なんか着られた日にゃ、犯罪チラついて勃つもんも縮み上がって勃たねえわ」

野田が言っている意味をわかりつつも、あえて違う方向で答えて返す。
佐野先生に似てるとか言われりゃ、気になるに決まってんだろ。とは、そのあとのことを考えれば、口が裂けても言えないわけで。言おうものなら、バレたときが恐ろしい。
あの冷たい視線で、二度と近づかないで下さいと言う姿がリアルに想像できる。

「まっ、そりゃそうだけどよ。てか秘書に女医ってエロエロじゃね。八嶋せんせぇのエッチィ」
「男はみんなエロいもんなんだよ。美人女医前にすりゃ、男なら誰でも一度お相手いただきたいです。てなもんだろ」
「たしかに」
「そういうもんですか」

野田の同意のあとに聞こえた冷ややかな声に、俺の周囲の空気は一瞬にしてマイナス30度になったんじゃないかと思うほど凍りついた。
油の切れたロボットみたいにぎこちなく後ろを振り返れば、愛想笑いもない顔でいまさっき名前のあがっていた人物が立っている。

「おわっ!佐野!!」

同じように振り返った野田が白衣姿を見て驚いたように叫ぶ。それを煩わしそうに少しだけ目を細めて見返すと、佐野が野田の腕に抱えられた雑誌を一瞥して、笑った。
佐野の性格を知っている俺が、その笑みにさらに凍りついたのは言うまでもない。


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