キリリク | ナノ


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縁さんが休暇に入られて今日で5日目。
9月5日。日曜日。
日曜日といえば一般的にお休みのイメージですが、私、柏田には関係のないこと。呼び出しの電話を受けてすぐに縁さんの元へ駆けつけ、そしていまは、お出掛けになるということでそのお供を務めているわけなのですが…。

「利一さん、あまり身を乗り出されると落ちますよ」
「だってさー、ポケットのなかって結構息苦しいんだって。それにちょっと暑いし」
「9月に入ったとはいえ、まだ夏の名残ですからね」

胸ポケットに入れた岸田とお話されるのは結構ですが、ここは街中なのですよ。ほら、すれ違った女性も不思議そうに首を傾げておられますから。
普通の人からすると一人でブツブツと喋りながら笑っている、ちょっと頭の可哀想な人にみえていると思うのです。
まぁそんなことを当人には言えませんけれども。申し訳ありませんが私だって我が身が可愛いのです。

「あっ!」

な、なんということでしょう!!
前から歩いてきていたチャラついた少年たちの一人が、縁さんの肩にぶつかったじゃないですか。しかもその拍子に岸田がポケットのなかから地面に落ちて…いやさすがは縁さん。ナイス反射神経です。落下した岸田をうまくキャッチされたよう、ですが…。
ヤバイ。これはヤバイ。

「大丈夫ですか、利一さん」
「…ってぇ…マジびっくりした。落ちるかと思った…」

ギャハギャハ笑ってる場合じゃないですよ少年!いますぐ地べたに這い蹲ってでも謝って下さい。じゃないと、とんでもない事態にっ。

「ちょっと待って下さい」
「あ?なに、あんた…っ!!」
「人にぶつかっておいて謝罪もなしとは、教養以前の問題ですね。礼儀とかマナーとか常識とかそういった言葉はご存知ですか?」

…遅かったか。

「縁さん…」
「うるさい。下がっていろ、問題ない」

問題ないって、少年の胸倉掴み上げて言うには説得力がないお言葉です。
見たところ相手はまだ高校生くらいじゃないですか。普段なら、ぶつかった程度のことを気にされる方ではないのに。岸田が絡むと本当にもうっ。

「相手は未成年ですし、ここでは人目が多いので目立つ揉め事は…」
「揉め事?人聞きの悪いことを言うなよ。俺は最近の礼儀を知らない子供に大人として教育しなおしてやっているだけだろう」

大人として、大変に大人気ないです。少年たちはといえば、縁さんの見た目にすっかり気圧され固まってしまっている様子。職業あからさまな強面はしていらっしゃらないのですが、それ以上に縁さんのご容姿はたちが悪いんですよ。
美人が怒ると怖いと申しますが、人間離れした美形が凄めばその視線だけで心臓が停止してしまいそうな迫力があります。
私ですら縁さんに睨まれれば、背中に冷や汗が伝うくらいなのです。耐性のない少年たちには少々刺激が強すぎるかと…。

「固まっていないで謝りなさい」

こんなところで揉め事など勘弁していただきたい。仕方なく少年たちに助け舟を出せば、私の言葉に我に返ったのか、少年たちが一斉に頭を下げての必死の謝罪。土下座をする勢いで謝ったのなら縁さんとて許して下さるでしょう。
ねぇ、縁さん。

…縁さん?

「あなたがぶつかったせいで、私の大切な方が危うく地面に落ちて大怪我をするところだったんです。すみませんと言われたくらいで許してやれるわけがないでしょう」
「へ?」
「幸い落下は免れましたが、怖い思いをさせてしまいました」
「あ、あの…」
「ああ、ショック状態でぼんやりしているじゃないですか」
「大切な方って…人形?」
「人形じゃありません」
「……………」

…電波系。

わかります。気持ちはよくわかりますよ少年。そりゃ唖然としますよね。ええ、目の前の超絶男前が人形命の不思議電波系にみえますよね。私とてこの人形が縮んだ岸田と知らなければ、同じ目で縁さんを見たに違いありません。

もう勘弁して下さい。
ほんとお願いします。

とりあえず。岸田はこれ以上の混乱が起こらないように、もう少しのあいだだけ、ショック状態から抜け出さないでいただきたい!







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