キリリク | ナノ


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9月3日、天気は雨。
雨、というより正確には雷雨です。事務所にしているビルの一室。
大きな嵌め殺しの窓からは、稲光がこれみよがしに空を走っている様がよく見えます。
目の前には体内の血液という血液がなくなってしまったように、白を通り越して青い顔に驚愕を張りつけた男。それを取り囲む恐持ての男たち。
なんとも不穏な光景です。まぁこの世界に身をおいていれば、見慣れた光景でもあるわけですが。
いまにも殴り掛かりそうな若い衆たちを宥め(目で脅し)て制しながら、怯えきった男。うちの所有するキャバクラで高額のツケを踏み倒して逃げていた、フリーター28歳。を前に、さてどうしたものかと思案しているわけなのですが。
ツケさえ払っていただければ、こちらとしても穏便にことを済ませてしまいたいところなのです。
カタギの方を相手に手荒な真似は控えたいところですので。ですが金はない、払えないと泣くばかりともなれば、こちらとしても、これ以上甘い顔はしていられないじゃないですか。

「困りましたね」

正直に胸の内を口にしただけなのですが、その一言にさらに泣きわめいての命乞いをされてしまいました。こんなことに時間をかけている場合ではないのに。こうなっては理性的な話し合いなど不可能でしょう。仕方がないのでこちらで対処を考えることに致しましょう。
まだ若いようですし、いくらでも使い道はあります。ないというなら、つくっていただけば良いのです。そうですね、それなら…。

「柏田の兄貴ぃ!大変ですっ!」

なんなのですか。監禁にはならないようにと開けておいたドアから、うるさいのが駆け込んできました。 平塚という私の下で働いているこの男。有能ではありますが、少々馬鹿でうるさいところが欠点なのです。

「なにがあったんです」
「それが兄貴っ。縁さんがっ」
「縁さんが?」

その名前が出るなり場の空気が一瞬にして張り詰め、若い衆がざわめき出したせいで私の呟きが掻き消されてしまうほどに事務所内は騒然。なにがあったのだと詰め寄らんばかりの男たちに、平塚が次の瞬間大声で宣ったのは、

「玩具売り場のルカちゃん人形コーナーで、人形を手になんかデレ顔で独り言呟いてたっす!!」
「「「「「!!!!!」」」」」
「………………」

嗚呼、なんということですか。

「兄貴ぃっ、縁さんは悪い病気ですよっ。すぐに医者にみせたほうがいいっす!オレ、いい脳外科探してきますからっ!だから早く縁さんをっっ」
「…………………」

とりあえず、なぜ平塚がそんなところにいたのかというのは、この際おいておくとして。

縁さん!!!
もう本当に勘弁して下さいっ。

この騒ぎの収拾をどうつけるのかと考えるだけで、頭痛が痛い…。いや、頭が痛い。
まぁ手始めは、うるさく騒ぎ立てている平塚を、蹴りで沈めるとしましょうか。

はぁ…まったく手が掛かります。







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