キリリク | ナノ


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縁さんが休暇に入られて一日目の今日は9月1日。
暦の上では秋といえる季節ではありますが、まだまだ気候は夏の暑さが失せることなく、簡単にいえば暑いです。
蝉の鳴き声が聞こえるなぁ、などとちょっとした現実逃避を行っている私の視界の端には、ルカちゃん人形サイズになった岸田に私が用意した服を着せ替えてお楽しみの最中である縁さんの姿が…。
寝入りばなを起こされ、縮んだ岸田という非現実的な光景を目撃したあのあと。もちろん寝なおすわけにもいかず事務所に行って、山積みになっている諸々を幾つか片付けてまいりました。
そして昼前に縁さんのマンションに再び戻った私が、いまなにをしているかというと、楽しそうな縁さんと着せ替え人形にされ、ギャアギャアと喚き散らしている岸田。そんなお二人の昼食のご用意をしているところです。
用意といっても買ってきたサンドイッチを岸田サイズに切り分け、これも買ってきたミニチュア食器の皿に盛り付けているだけなのですけれど。
同じくミニチュアなコップにアイスコーヒーを注ぎ、普通に盛り付けた縁さんの分と一緒にテーブルに運びます。
テーブルの上には、ついでにご用意したミニテーブルセットを乗せて、岸田の分はそちらへセットしてみました。このくらいの気が回せずに、浅北組五代目の右腕など務まりません。
食事の用意が出来たことを伝えにいくと、あれこれと着せ替えられ弄り倒され、ゲッソリとした顔の岸田が縁さんの手を逃れ、私に飛びついてきました。足元にしがみつき縁さんから隠れようとしている様は、なんだか微笑ましくもあります。
そう思えるようになったということは、私もだいぶんこの状況に慣れてきたということでしょう。
にしても、ルカちゃん人形の服ということは当然女物であり、岸田が着ているのは、かの有名なルイス・キャロルが書いた不思議の国のアリスの主人公が着ているような、青の膝丈ドレスに白いフリルエプロン。ストライプのニーハイに、ご丁寧に頭にはドレスと同じ色の大きいリボンがつけられています。さすがに化粧まではしていないようですが…。

「柏田さん、なんとかしてってば!浅北さん、絶対に俺で遊んでんだけどっ」
「……あ、その…よくお似合いですね」
「忘れているようですが、いままで利一さんが着ていた服を買ってきたのは、そいつですよ」
「ああああ!!!!忘れてた!!!!」

なんですかその変態を見るような目つきは。言っておきますが、いきなりルカちゃん人形サイズの服を持ってこいと言われて、人間の男が着るものだとわかる者なんて、この世界に一人だっているわけがないでしょう。不可抗力です。
しかも、もっとボーイッシュな服もあったはずなのに、いま着ているようなメルヘンで乙女な服を選んで着せたのは、俺ではなくてそこでニヤついている男ですよ。抗議ならそちらにして下さい。

「…柏田さんって、もっと普通の感性の持ち主だって信じてたのに…」
「岸田さん、私は…」
「こいつはね、真面目ぶってみせて、実はドのつく変態なんです。ですからそんなに近くに寄っては危険ですから、早くこちらへいらっしゃい」
「…………」

誰がド変態ですか!岸田が私に縋りついているからといって、なんてわかりやすい嫉妬の八つ当たり攻撃。
そして岸田。馬鹿な話を鵜呑みにして、後退りしないで下さい。
嗚呼、なんたる理不尽。神様、いったいこの私がなにをしたというのでしょう。
まったく、この世界は私に優しくないのです。







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