キリリク | ナノ


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「…岸田さん?」
「うん、俺」
「サイズのほうが、どうもいつもより、かなり小さいように見えるのですが…」
「だろー。俺もマジ驚いたし。なんか起きたら体縮んでてさ」
「………………はぁ」

そこから聞いた岸田の話によるとこうだ。
街を歩いていたら神田、御坂の長男坊のことですね。とそっくりな黒ずくめの怪しい男に声をかけられ、なにか願いを言えと詰め寄られたので、最近恋人が忙しくてろくに会えもしないから、たまにはゆっくり一緒に過ごしたい。とそんなようなことを言ったところ、急に激しい睡魔に襲われ、気づいたら自分が着ていた服に埋もれてこのソファの上にいたと。

「……………」

馬鹿馬鹿しい。どこの三流絵本の世界ですか。いまどき小学生でも読みませんよ。

「柏田さん、疑ってるでしょ!」
「いえ。そういうわけでは…」

けれど、実際にこうして目の前に縮んだ岸田がいるということは、疑いたくても疑えない事実であって。
頭が痛い。なんでこんな展開になるんですか。

「まぁ、心配しなくても願いさえ叶えば元に戻れますよ」
「だといいんだけど…でも願い叶うって無理じゃん。浅北さんが忙しいのには変わりないわけだし」
「それなら大丈夫です。昨日で急ぐ仕事は終わりましたから、今日から一週間ほど休暇をとる予定になっていましたし」
「ほんとに!」
「ええ。なぁ、柏田」

あの、ちょっと。人が現状に打ちひしがれているあいだに、勝手に話を進めないで下さい。

「本日は川本社長との」
「打ち合わせは、キャンセルになったんだったよな?」
「いえ、あの…」
「そう言っていただろう?」
「あ…はい」

ここでNOと言おうものなら殺すぞというかの視線です。
クソッ、この暴君めっ。
あ、いえ。あまりのことについ言葉が乱れてしまいました。私としたことが。
ええ、大丈夫です。私、柏田、浅北組五代目に仕える身。こんな無茶振りにも慣れています。これくらいのことに対処出来なくてどうします。
そう私、柏田。あくまでも有能なる浅北縁の右腕。
例え現実ありえない事態が目の前に存在していようが、寝る暇のない忙しい時期に主がすべて丸投げで、一週間ものあいだ休暇をとると言い出したとしても。
このくらいの問題など…。

嗚呼、柏田庸司。
生きてあのベッドで安眠を貪れる日は二度と来ないかもしれません。







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