キリリク | ナノ


▼ 3

「断固として否定するっ」
「別にどうでもいいし」
「よくない!撤回しろよっ。あれはメイドさんじゃありませんでしたと言って下さい!!」

後半が敬語なのは気にしないように。だって俺が恐怖王高梨に、言え!なんて命令出来るような豪胆な胆を持っているわけがないじゃないか。
俺の必死な様子に心を改めた…いや、ただ単に面倒くさいと思ったといったほうが正解だろう。
とにかく高梨は小さく息をつきながらも、メイドじゃなかった、と撤回する言葉を口にしてくれた。
まぁそれが、うるさい親父の説教を聞き流すような態度だったのには、目を瞑ってやってもいい。
けれど再び落ちる沈黙。
うっ…、なんでこう黙るかな。

「あ、あのー、高梨さん?」
「あ?」

まだなにか言い足りないのかよという面倒臭そうな高梨の返事に、これといって言いたいこともなく声をかけてしまった俺は、黙るしかない選択肢を強制的に選ばされてしまった。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「高梨桜ぁああああっ!!!!」

突然上がった怒声。
いや、俺じゃないですよ。俺じゃないです。
ならいったい誰なのか。
その答えは、けたたましい音を立てて屋上のドアを開け登場した5人の男たちだった。驚いて振り向いた先に、なにやらガラの悪そうなのが顔を真っ赤にして立っている。
好きです。
なんて赤くした顔で恥らいながら告白しにきました、なんて様子じゃもちろんない。
突如として現れた男たちは討ち入りにでもきたという勢いで、先頭にいたスキンヘッドの男がビシッと音がしそうな指差しを高梨に向け、

「俺の美和ちゃんを返せっ!!!」

…なんですと?

ポカンと開いた口で奇妙な一団と高梨を交互に見る俺、混乱中。
美和ちゃんって誰ですか?

「…高梨、誰あれ」
「しらねー」

とりあえず知り合いらしい高梨に話を聞こうとするも、返ってくるのは役に立たない即答で、当の本人は興味なさげに欠伸なんてしている。そんな高梨にますますヒートアップしたスキンヘッドが、頭から湯気でも出しそうなくらいに、顔といわず頭の天辺までもさらに真っ赤にして怒り出した。いまにも地団駄を踏みそうなご立腹ぶりである。

「んだとゴラァッ!人の女横取っておいて知らねえですむわけねえだろがっ」
「そうだぞっ!ヨッシーはホントに美和ちゃん溺愛だったんだからな!!」
「ヨッシーに謝れよっ可哀想だろっっ」

そうだね。可哀想だと思うよ。
なんていうか、頭のなかあたりが。

次々と怒鳴り散らす男たちの話を総合すれば、このスキンヘッド、ヨッシーの彼女美和ちゃんを高梨が横恋慕で、あらあらゴメンネー的に奪っちゃいました。
といったところらしいけど。

「ないわ、それ」

どう考えてもその美和ちゃんって子が勝手に高梨に惚れて、ヨッシーをポイしたようにしか思えない。哀れヨッシー。
なんとも可哀想な、主に頭が。ヨッシーを憐れみの目で眺めていると、目と目が合ったヨッシーが思いきり睨みつけてきた。いくら憐れといえど見た目がいかついヨッシーに睨まれたのでは、小心者な俺はたじろがないわけにはいかない。
ビクリと肩を揺らせば、今度は高梨と目が合った。
情けないとでも思っているに違いない。盛大な溜息を零してくれた高梨は、面倒臭そうに座っていた地面から立ち上がると、ダルさ全開でヨッシーと俺のあいだに立った。
高梨の体でちょうどヨッシーから俺が遮られる。ギンギンに睨みつけてくる視線がなくなり、ほっと息をついた。

「てか、お前らなにしに来たわけ?」

なにしに来たってそんな高梨さん。
明らかに彼女をとられて、その腹いせに怒鳴り込みにいらっしゃったようですけど。


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