キリリク | ナノ


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「お、俺も邪魔だよな。ごめん、もう行くわっ」

じっと見据えられる目に思わず、すみません!と神田に倣って立ち去ろうと立ち上がる。

「行くなよ」
「へ?」
「別に邪魔じゃねーし」
「…あ、うん。そう?」
「そう」

それならと一度浮かせた尻を地面に下ろした。この場にいることは許されたみたいだが、引き止めるだけ引き止めておいて、高梨がなにか話題を提供してくれるわけでもなく、再び落ちる沈黙が痛い。

「…………」
「…………」
「…………」
「…あ、あのさっ」
「なに?」

うっ…、こっち見るなよ…。
自分で話しかけておきながら、いざ高梨の目が自分に向けられると心臓がドキドキと暴れ出すんだから困ったものだ。緊張で頭のなかも真っ白になってしまっている。
けれどいつまでも黙っているわけにもいかず、とりあえず俺は思いつくまま話を振ってみることにした。沈黙よりはいくらかマシだし。

「コロッケパンって好き?」
「…嫌いなら食わない」

ですよね。
さっき食べてましたもんね。

「あ、じゃあ漫画は?」
「たまに読む」
「煙草とか」
「癖」
「芸能人で誰が好き?」
「興味ねえ」

会話が続きません神様!ああ、もう他に質問ってなに!?
段々と趣旨が変わっていっていることには気づかず、必死で高梨への質問を考えようと俺の頭はフル稼働中だ。
他、他、と悩むところに昨日テレビで見た、メイドカフェのニュースを思い出した。ピンクのふんわりドレスみたいな服に真っ白のふりふりエプロンが可愛いメイドさん。
普段なら高梨相手に絶対に聞かないだろう質問も、いまの俺のテンパリ具合は最高潮で、やっと浮かんだ質問内容を躊躇いもなく口にしていた。

「メイドカフェのメイドさんはっ?」
「…あ?」

意味がわからないというように、眉間に深い皺を刻んで高梨が怪訝な声を上げる。そりゃいきなり質問攻めにされた挙句、メイドさん好きですか?なんて聞かれれば、誰でも不審に思うだろう。それでもこれは俺の精一杯だ。
とにかく会話を続けようと返事を促せば、不審者を見る目つきながらも考えてくれているようで、高梨の目が斜め上へと移動する。

「…岸田のはおもしろかった」

返ってきた答えに今度は俺が戸惑う番だった。
俺のメイドってなに?
わけがわからずポカンとするも、そういえばと思い至ったのが一回生のときの学園祭。
いやだいやだと拒否し続けた俺の抵抗虚しく、満場一致でそのとき所属していたサークルの催し物。女の子に混ざってふりふりエプロンを着せられて、カフェのホール係をやらされたのだ。
思い出すだけで苦いものが込み上げてくる。だがここはきっぱりと言っておかなければならないだろう。そうだ。あのときの俺は、

「あれはメイドじゃねえ!」

キュートなエプロン姿だったのはたしかだが、その下に着ていたのはメイドドレスじゃなくて、黒のパンツに白のシャツと至って普通なカフェスタイルだった。ギャルソンなエプロンじゃなかったのが、なんとも切ない話だけれども。

「似たようなもんだろ」

全力で否定する俺に、高梨は涼しい顔で問題発言を吐いてきた。ここはさすがの心優しい俺も、うん、そうだよね〜、なんて認めてやるわけにはいかない。男の沽券にかかわる問題だ。


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