キリリク | ナノ


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それでも一応、変な誤解で勝手に話を膨らまされないように今朝の行動の理由を、多少言い訳がましいながら付け足しておくのを忘れないのは、過去の神田被害のなせる業だ。
どれだけこの愉快犯のせいで被害を被ったか、数えるのもバカらしくなる。
本当に神田という男は…っと、思い出し怒りをしている場合じゃなかった。いまはそう、今朝のあの光景の話をしているのだ。
ふっと息を吐き、一呼吸おいたあと。

「浅北さんと柏田さんがベッドで一緒に寝てたんだよ。しかも仲良く折り重なって」

口に出してしまえばさらに鮮明に、浅北さんの胸の上に乗っていた柏田の頭やら、その頭に添えられていた浅北の手やら、細部までもが浮かび上がってくる。
浅北の性格からして男と雑魚寝なんてするようにも思えないし、それに一見しただけでもあの密着具合は、寝るところがなくて仕方なく。なんてものには見えなかった。てか、あれだけの部屋の広さで、寝ようと思えばソファでもどこでも寝れるはずだ。

「浅北さんと」
「眼鏡キツネが?」

ついさっきまで喧嘩をしていたとは思えない、ナイスコンビネーションで神田と高梨が互いに言葉を補い合う。そんな二人の顔は、この世の不思議を目の当たりにしたかのように不可解そうに歪んでいる。
眼鏡キツネとは随分な言いようだと高梨を批難しようにも、その表現の正確さに思わず頷き、俺はというと二人よりも更に複雑な表情で黙り込んだ。

「りいっちゃん、朝から寝ぼけてたんじゃないの?」

能天気な声でなにかの勘違いだと笑われ、それでもリアルに焼きついている光景を見間違いだったとは思えず、神田の意見を却下だと首を振って否定する。

「…てか、あいつらは、なんて言ってたわけ?」
「さぁ。そのまま出てきたし」
「ええー。なんで?浮気現場目撃でしょ。普通そこは、その女誰よ!?許さないわぁあああああってなるとこ…あ、男だっけ」
「…神田、黙れ」

浮気現場。ていうことはやっぱり、浅北さんと柏田さんのあいだには、上司と部下を越えた関係があったってこと?いやいや、浮気とかそもそも俺ら付き合ってるわけじゃないし。
別に俺が浅北さんを問い詰める権利なんてないわけで…。

「…やっぱ、あの二人付き合ってんのかな」
「はぁ?」
「あ〜、なんか意外だって思っただけ。まぁ、ありえなくはないよな」
「いや、ありえねえだろ」

苦虫を噛み潰したような顔で断言する高梨に、曖昧に笑ってみせるのが精一杯だった。グルグルと渦巻くわだかまりに、胸の奥が押さえつけられているように苦しくて、我知らず長い息を吐く。

「…俺、もうすぐ講義始まるし行くわ」
「岸田」

引き止めるように呼ばれた高梨の声にも振り返らず、ヒラヒラと背中を向けたまま手を振って屋上を出る。
頭のなかでは今朝見た光景がエンドレスで思い出されて眩暈がしそうだ。陽の光の入らない薄暗い階段を降りながら、一人もう一度深く息をつく。
仕事がハードで大丈夫なのかとか、体調を崩してるんじゃないのかとか、そんな心配をしているあいだ、二人仲良くいちゃついてたのかと思うと、そんな権利なんてないのはわかってはいても腹が立った。

「馬鹿みてぇじゃん、俺」







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