キリリク | ナノ


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「それともエレベーターのドアで頭でも挟んでもらうか?少しは衝撃で利口になるかもしれないな」
「まっ、待て!待て待て待て!!なに怒ってっか知らないけどさ、あんま乱暴なことは良くないんじゃないかな!こんな分厚いドアで挟まれたら痛いじゃすまねえって」
「痛いで済ます気がないからいいんですよ」

いやいや、よくないから!

「柏田さんも黙ってないで、抵抗くらいしたほうがいいって!」
「騙されてこんな場に連れてこられたのに、随分と寛容なんですね」
「へ?」

騙されてってどういうこと?
浅北さんの言葉の意味がわからず首を捻れば、下を向いたまま。正確には向かされたまま、柏田が先ほどの言葉を繰り返すように、すみませんと詫びてきた。柏田に謝られる理由が見当たらず、更にわけがわからない。
困惑する俺をよそに有言実行とばかりに行動に移すべく、柏田の頭をドアの閉まる辺りまで引き寄せようとする浅北さんに、慌てて制止をかけようとしたところ。
華やかな話し声が聞こえ、その声が突然プツリと途切れた。
声の方向に目を向ければ、パーティ会場から3人ほど女の子が出てきて、なにやら物騒な気配を漂わせているこちらの様子に気づいたようだ。
ヒソヒソと話し合う女の子たちに、さすがにこれ以上は続ける気が失せたのだろう。

「まぁこの場はもういい。利一さん、帰りますよ」

突き放すよう柏田から手を離すとエレベーターの閉ボタンを押して扉を閉めた浅北さんが、完全に閉まりきる前にボソリと柏田に告げた。
俺の心臓は防弾ガラス製なんだぜ☆
なんて豪語する輩ですらその自信を粉砕されかねない恐ろしい宣告…は聞かなかったことにしよう。
それがいい。
ゴメン柏田さん。俺にはこの恐怖の帝王から守ってやれる力はありません!
あとで待つ柏田の過酷な運命に目を瞑り、そしてまた現状冷や汗ものの己の運命からも目を瞑ってしまおうと現実から目を背けるも、

「利一さんとのお話は終わったわけじゃありませんので。家に戻ったらきっちり理由を聞かせてもらいますからね」

…無理。
あくまでも逃がしてくれる気がない浅北さんに、閉ざされた空間のなか、酸欠で倒れてしまいそうだ。
いや、むしろ倒れたい。倒れさせて下さい!

「柏田にしろ利一さんにしろ、俺の周りの人間はろくなことを考えないですよね」

困ったものですと溜息をつく浅北さんに、一番ろくでもないのはあんただと言ってやりたいけれど、もちろんそんな勇気などない俺は引き攣った笑いを浮かべ、アハハ、というより他なかった。

人を呪わば穴二つ。
まさにいまの俺の状況こそが、それなのかもしれない。



― END ―





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