キリリク | ナノ


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「ちょっと、足を撫でているだけですが?」

なにか問題でも?と言わんばかりの目で見下ろされ、開いた口が塞がらず太腿を這い回る手に棒立ちで立ち尽くすしかない。

「西園寺さんがよくて、俺はダメなんていいませんよね?」

周りには聞こえないよう問いかけてくる声はかなりご立腹のようで、ふざけるなと怒鳴りつけようにも、乾いた笑いしか出てこない。
俺が西園寺を庇ったことで余計に臍を曲げてしまったらしく、わざと人の足をスリットから露出させ撫でくり回す浅北さんに、助けを求めて柏田を見るも、我関せずというように目を逸らされてしまった。

薄情者!眼鏡狐!

心のなかで柏田を罵倒するも、当の本人は皿に盛った生ハムメロンを頬ばりながら、明後日の方向を眺めている。徹底的に無関心を装うつもりだ。
この際助けてくれるならと、頼りがいのなさならトップレベルを誇れるだろう翔太にすがる目を向けるも、さっきまで翔太が立っていた場所にいたのは鮮やかなブルーのドレスを着た女だった。
豊かな胸元を惜しげもなく大胆に開いたドレス姿の女は、派手なメイクを施した目を吊り上げ俺を睨みつけている。

浅北さんにずっとまとわりついてた奴じゃん。
宮下グループのご令嬢、宮下梨華だ。

「浅北さん、あっち…すげぇ怒ってんですけど」
「人の心配なんて余裕ですね」

いえ、100%我が身に降りかかってくる災難の心配です。
どう見ても恨まれてるの俺じゃん!

「浅北様っ」

ほら来た!我慢できなくて飛び出してきた感じだろ、コレ。どうすんの!?
一難去る前にまた一難きちゃいましたけどっ。

「そちらの方は誰なんですか?」
「あ、あの…お、…私は…」
「あなたには聞いてませんっ」

ギロリと睨みつけられ、迫力になんとか浮かべた笑顔のまま石化する俺。さすがに動かすのはやめたものの、太腿から手を離さず梨華を見た浅北さんが、煩わしそうに眉を顰める。
穏便に解決なんて希望はどこにも見当たらないんですが。

「浅北様っ」
「うるさい」
「え?」
「うるさいと言ったんです。この人が誰だろうと、あなたに言わなければいけない理由なんてありません」

いつもはニコニコと胡散臭い笑みを浮かべている男が、別人かと思えるほど冷めた顔で梨華を見下ろしていた。この姿こそが本来の浅北さんだが、社交時の姿しかみたことがないであろう梨華には、浅北さんの態度は相当驚きだったらしく、戸惑いから言葉をなくして青褪めてしまっている。
西園寺の方も気の毒といえば気の毒だけど、女相手にこの態度はないんじゃないか。
育った環境から女=怖いもの。なんていう刷り込みがあるにはあるが、基本的に女の人は守るべき対象であって、青い顔で立ち尽くしている梨華を見ると、浅北さんへの怒りがわいてきた。

「赤の他人ですよ」

浅北さんの肩を押しやり体を離すと、梨華に向きなおって言い放つ。
そもそも俺はさっきから、浅北さんの気遣いのなさに対して怒っているわけで。ハーレム作戦は成功したのか微妙な感じだし、このくらいの仕返しは許されるんじゃないだろうか。

「利衣さん?」
「関係があるとすれば、無関係ってくらいじゃないですか」

訝しげな声をかけてくる浅北は見ないまま、キョトンとしている梨華にさらに吐き捨て言い逃げる。
ホールを出るときに青い顔をした翔太が目に入ったが、俺を見捨てた柏田と同罪なのだから、気遣ってなんてやるもんか。
ちょうどよくこの階に止まっていたエレベーターに乗り込むと、神田を捕まえにラウンジがあるという最上階に上がる。つもりだったのに、押そうとしたボタンは寸でのところで、掴まれた手によって阻まれてしまった。

「離せよ」
「なにを怒ってるんですか?」
「知るか!離せっ」


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