キリリク | ナノ


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たしかに。説得力がありすぎる理由だけど、はっきりすっぱり言われりゃ俺の男としてのプライドはズタズタだ。

「ようするに女は無理だから、男を侍らせてこいと」
「大丈夫。モテモテ間違いなしだから」
「嬉しくない。全然嬉しくない」

男が男にモテモテでなにが嬉しい。気持ち悪いに決まってんだろ。

「目的は浅北さんの目の前で他の野郎とイチャイチャして、りいっちゃんと同じ思いさせてやること。そーでしょ?」
「うっ…」
「それから周りの注目をりいっちゃんに集めて、なによあの子!キィイイッて梨華ちゃんにさせること」
「プライドが高い人だから、すごく悔しがられるでしょうねぇ」

女って怖い。
微笑む冴子さんから黒いオーラが見えるんですが…。

ドレスもミュールもなにもかも冴子さんが用意してくれたんだし、いまさらやめますとも言い出せない俺は黙って笑うしかない。それに浅北さんには、少しくらい仕返ししても罰はあたらないと思う。
ちょっとは俺の気持ちを思い知ればいい。

「じゃあ行きましょうか」

上のラウンジで飲んでくるという神田とはエレベーターのなかで別れ、俺と冴子さんでさっき逃げてきたばかりの会場となっているホールに向かう。
入り口のところで招待状はと尋ねられたときにはドキリとしたけど、いつの間に用意していたのか、冴子さんが招待状を差し出したので、その友人として俺もあっさり会場に入れてもらえた。
人で賑わうホールのなかを、浅北を探す…こともなく、目当ての相手はすぐに見つかった。
相変わらず女に囲まれていらっしゃる。
出てきたときと同じように、浅北さんの周りを四、五人の女たちが取り囲み、腕には梨華という宮下グループのご令嬢がまとわりついている。

「私は挨拶まわりをしなくちゃいけないから、しっかりね」

しっかり男ハーレムを作ってこいと微笑まれ、立ち去る冴子さんを見送る顔は若干の引き攣り笑いだ。
ハーレムか…。
そんなもの作ろうと思って作れるのは浅北さんくらいじゃないだろうか。どうすればいいのかわからず、とりあえず、なにか飲み物でも貰おうと近くの給仕を呼び止めようと上げかけた手に、ひやりとした冷たさを感じて声を呑んだ。

「…あ、の」
「シャンパンはいかがですか?」

手を包み込むようにしてグラスを持たされ、不意打ち男を戸惑いがちに見る。浅北さんより年は少し上だろうか。けれど浅北さんのような落ち着きや貫禄はなく、どちらかといえば神田のようなチャラ男的印象が強い。

てか手を離せ。エロジジイ。

「こんなに綺麗な方がいらっしゃったのに、今まで気がつかないとは、私も落ちたものです」
「…はぁ」
「ああ!美しい人。お名前をお聞きしてもよろしいですか!?」

おい、変なのに捕まったんですけど。
助けてアンパ●マーン。

なんて助けを呼ぼうにも、現実にパンで出来たヒーローなんて存在しないことはわかっているわけで。

「利衣です」

握り締められた手をさり気なくほどいて、控えめな笑みで名前を告げれば、今度は肩に腕が回された。抱き寄せられ露出した肩に鳥肌が立つ。
出来ればすぐにでも殴り倒してやりたかったが、遠くで冴子さんがその調子とばかりに笑いかけてきたのに気づき、握った拳の行き場もなく顔面パンチは諦めるしかない。

「あの…肩…」
「恥ずかしいんですか?可愛い人だ」
「きめぇ…」
「なにかおっしゃいましたか?」
「いえ、なにも」

やっぱり殴りてぇ。


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