キリリク | ナノ


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「浅北さんとなんかあったのー?」

確信をずばりと呑気な口調で突かれ、壁に凭れて三日月のように細めた目で笑っている神田を、咄嗟に振り返ってしまった。さらに笑みを深めた神田の好奇の目に、自分の迂闊さを悔やんで溜息が漏れる。

「そんなたっかいスーツ着てこんなとこいるなんて、浅北さん絡みの他ないでしょ」
「仕事関係のパーティ。取引先の娘さんの誕生日なんだってよ」
「そういえば宮下グループご令嬢の誕生日パーティ、ヒルストンホテルでされるって言っていたけど。今日だったのね」
「冴子さん、知り合い?」

意外なところからの合いの手に、俺だけじゃなく神田も驚いたようだ。

「お父様が宮下グループと付き合いがおありなの。梨華さんとも何度かお会いしているけど」
「嫌いなんだー」
「苦手なだけよ」

二人のやりとりを聞きながらも、梨華と言う名前についつい眉間に皺が寄ってしまう。浅北の傍から離れずに、ベタベタとひっつきまくっていた女の名前が、たしか梨華とかいったはずだ。
そんな俺の様子に目ざとい神田が気づかないわけもなく、わざとらしく肩を叩く手。

「嫉妬?」
「なっ!バカッ!俺は別にっ」

冴子さんがいる前でなにをいきなり言い出してくれるんだ。

「浅北さんのことだからぁ、モッテモテで、りいっちゃんはほっとかれてお拗ねって感じ?かっわいーっ」
「うるさい!黙れバカ!」
「でも、そうなることくらいわかってるのに、りいっちゃん一緒に連れてくるって浅北さんも意地悪だよね」
「………」
「わざとだったりして」

ボソッと呟くように告げられた神田の言葉に、いままでギリギリのところで抑えていた怒りが、メーターを振り切ってしまった。
ガシリと冴子さんの肩を掴むと、同じくらいの高さにある目を真っ直ぐに見据える俺。かなり目が据わっているのは我慢キャパシティを超えた証拠だ。

「冴子さん」
「なにかしら?」
「俺とイチャイチャして下さい」

沈黙。最初に吹き出したのは神田だった。
ケラケラと笑い出した神田につられたように笑い出す冴子さん。
至極まじめなお願いをしたつもりだった俺は、神田はともかく冴子さんにまで笑われてしまい、なんだか居たたまれない。

「ごめんなさいね。ご協力して差し上げたいのだけど、私、神ちゃん一筋なの」

するりと神田に腕を絡ませる冴子さんに、とある人物の顔を思い出し神田を睨むも、視線の意味に気づいていながら、素知らぬ顔で神田の腕は冴子さんを抱き寄せている。

「オレ、いいこと思いついちゃった〜」
「楽しいこと?」
「そっ。りいっちゃんも浅北さんに仕返しが出来て、冴子さんにもちょっとばっかしおもしろいこと」
「神田?」
「善は急げ!てことで冴子さん、ホテルの部屋一つ借りて欲しいなぁ」






「で、なんでこの格好ですか、神田さん」

俺の格好は、スリットの際どい、体にフィットした濃緑色の光沢のあるセクシードレスに、冴子さんとは対照的なストレートロングヘア。つけ睫毛までしたばっちりフル装備メイク。鏡に映っているのは懐かしの利衣である。

「なんでって、ハーレム作戦だからでしょ」
「女装する意味がわかんねえって言ってんだよ」
「だってぇー、りいっちゃんじゃ、浅北さんには適わないでしょ。浅北さんがいたら女の子みんなそっちいっちゃうじゃーん」


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