キリリク | ナノ


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「あの、姐さんって誰っすか?」
「姐さんっていったら、縁さんのコレだよ。ああ、翔太は知らねえのか」

コレ、っといって小指を立てる組員に、はぁ、と間の抜けた返事しか出来ず自分の小指を見下ろす。
小指を立てるといえば、女。
女……。

「おんなぁ!?縁さんに女なんていたんっすか!?」

初耳だ。確かに組入りしてからまだ浅いとはいえ、兄貴の下で動いている身としては縁さんとは少なからず関わる機会も多い。
組長である縁さんに決まった相手がいれば、いまのいままで、まったく気づかないなんてことはないはずだ。
そりゃ完全に縁さんが隠していたというなら話は別だが、兄貴はともかく、他の組員まで周知の仲のようだし。

「あー…、女ってか、まぁ、アレだよ。なぁ?」
「すげぇ別嬪さんだけど、アレだよアレ」
「アレ?」
「「 男 」」

!!!!!!!!!!!!!!

冗談にしては信憑性がなさすぎておもしろくない。そんなことを言っているのがバレた日には、ただじゃすまないだろうに。この場には縁さんの右腕とも言われている柏田の兄貴だっているのだ。下手な冗談なんていって、兄貴に怒られ…。

「柏田さん、冗談っすよね?」

なぜかいつまで経っても諌める声をかけない兄貴に、恐る恐る尋ねてみれば、チラリと寄越された視線がすべてを物語っていた。

マジっすか…。

いや、姐さんが男だったという事実よりも、もっと衝撃なのは縁さんのあの態度だ。
冷酷非道を突き進むような、恐怖の象徴のような、浅北組五代目のデレデレしたあの態度だ。

縁さんが男と付き合っていたことよりも、オレにはそっちのほうが衝撃っす!!

「てか縁さんのあの態度、最初はやっぱビックリするよなぁ…」
「俺なんてある意味、恐怖で凍りついたし」
「まぁ、あとは慣れの問題ですよ。頑張って下さい」

石のように硬直したオレの肩を組員二人がポンポンと宥めるように叩く。兄貴の気の毒そうな声が聞こえたが、虚しく耳の穴を通り過ぎていった。

そんなオレもそれから一ヶ月後にはすっかり慣れて、姐さん。利一さんと和やかな談笑をする仲になったのだから、誇るべきは順応性。
次は固まる後輩の肩を、オレが叩く番がくるんだろう。



− END −





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