君がため〜 | ナノ


▼ 13

「はぁ!?」

人が真剣に話しているというのに、言うに事欠いて脳みそ岩石とはどういうことだ。

「空気くらい読んだらどうなんですっ」
「人の気持ちくらい読んだらどうなのっ」

語調荒く空気を読まないにも程がある相手を責め立てれば、同じように荒げた声で反撃され眇めた目に睨みつけられた。
怒られる意味がわからず思わずたじろいだ俺に、捺巳さんがズイと距離を詰めてくる。

「俺はアンタになら一生仕えてもいいって思ったんです、なんて熱烈な口説き文句寄越しておきながら、恩だなんだって色気もなにもあったもんじゃないよね」
「……っ!!!」

首へと腕が回されたかと思えばグイと引き寄せられ、なにと思う間もなくひんやりとした感触が唇に触れた。
一秒程度の一瞬の口づけだったが残った感触がリアルで、なにが自分の身に起こったのかは疑いようもない。

「なっ、なっ、なっ!!!」
「あそこまで信じられちゃ応えてやろうっていう気にもなるし、あんな口説き文句なんてもらったら、惚れてみたくもなるじゃない」

今さっき俺の唇に重ねられた捺巳さんのそれが、弓なりにつり上がりさらりととんでもない台詞を吐き出した。
耳を疑う言葉に混乱から固まってしまった俺に、あろうことか捺巳さんは股間の息子をスラックスの上から握り込んでくる。

「あ、結構おっきい」
「捺巳さんっ!!」

展開がいきなりどころかジェットコースター並みにめまぐるし過ぎて俺の思考回路は今にもオーバーヒートしそうだ。
やわやわと息子を揉みしだいてくる捺巳さんの手を咄嗟に払い退け、肩を掴んで押し退ける。

「マジ、勘弁して下さいよ…」
「反応してるじゃん」
「そりゃ反応くらいしますよっ!」

捺巳さんの世話役となってからとんとそっちの方はご無沙汰だったのだ。今までは忙しさで誤魔化してきたが、そんな場所を撫でられて反応しない男がいるわけがない。
人がなんとか理性を総動員して衝動を抑え込もうとしているというのに、捺巳さんは俺の気も知らないで懲りずに今度は両腕を背に回して抱きついてくる。

「離れて下さい…」
「なんで?」
「なんでって…いろいろと、困るんですって」
「なにが困るの?」
「……っああ!もうっ!!」

分からず屋の主に危機感を持つということを教えてやろうと、密着した下半身のすっかり昂ぶってしまった熱を押しつけ、寒さのせいか色の薄くなった捺巳さんの形の良い唇を噛みつくように塞いだ。

「ん…ぅ…っ」

捺巳さんを味わうように差し入れた舌で柔らかい粘膜を舐め上げ、シャツの裾から手を入れて薄い肉づきの腹から胸へと撫で上げる。
ビクリと震える体にこれで少しは今の危うい状況をわかってくれたかと、抱き締めた腕の力を緩めてやった。

「ちったぁ、自分の状況ってもんが理解出来ましたか?」

散々煽ってくれた腹いせに意地悪く聞いてやれば、見上げてくる捺巳さんの顔は何故か腑に落ちないというようで、予想外の反応にまたしても驚かされたのは俺の方だった。

「なんでやめちゃうかなぁ」
「いや、だから…」
「フラグは立ってたと思うんだけど…」

悩ましげに眉根を寄せ、捺巳さんがブツブツと俯き加減にぼやく。
フラグやら選択肢やらという言葉が聞こえ、攻略難易度高すぎ、といった一言が溜息混じりに呟かれる。
捺巳さんの言動があれなのは今に始まったことではないが、これはちょっと本気で相手の頭の中身を疑いたい。

「恋愛シュミレーションゲームは得意なんだけど、三次元じゃやっぱり上手くいかないもんなんだねぇ。どう思う?」
「まったくもって意味がわかりません」
「シノちゃんの攻略について悩んでるんだって」
「…………」
「あ〜、ゲームならネット検索とかしたら攻略方法載ってるのになぁ。まぁ、そんなの見ないで全クリするのがオタクとしてのプライドっていうかオタク魂なんだけど」
「…………」
「まっ、時間はあるしこれからじっくり探っていけばいっか」

一人納得して頷く捺巳さんに、当事者であるはずの俺は完全に置いてけぼりをくらっていた。


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