君がため〜 | ナノ


▼ 12

挙句、恭悟さんに負けず劣らずのドSっぷりとくれば、さすがに川部への同情の気持ちがわいてくる。

「そんな顔しないでよ。勝ったんだからいいじゃない」
「恭悟さんは知ってて、俺だけ蚊帳の外だったってのが気に食わねぇ」
「気づかないオマエが鈍いんだっつの。一試合目の捺坊みてりゃ、遊んでんのなんてまるわかりだったろーがよ」
「あ?」
「あんだけ振り込んどいてハコになってねぇって辺りでおかしいと思えよ。調整かけながら負けてただろ」
「シノちゃんにもサービスしてあげたじゃ〜ん」

コイツら…。

「組の命運かかった勝負で遊んでんじゃねぇよ!!!」



和風の座敷に赤や緑や金といったモールが波打つように飾りつけられ、家庭用にしては大きすぎるクリスマスツリーが我がもの顔で中央にどっしりと居座り、煌びやかなネオンを輝かせている。
オーナメントに混ざって何故か七夕の短冊までつけられているのは、気にしない方向でスルーしよう。
どうせ何故と聞いたところでまともな答えが返ってくるとは思えない。
夜中の12時を過ぎ、日付が25日に変わった頃になっても、相も変わらず座敷内は賑やかしいお祭り騒ぎで満ちていた。
変わったことといえば、BGMに流れていたクリスマスソングがカラオケの盛り上がりになったことくらいで。
後継ぎの座をかけた麻雀勝負で捺巳さんが、いろいろと問題はあるとはいえ勝利を収めたことから、組内の緊迫していた対立もある程度の蟠りはあるとはいえ一応の落ち着きをみせた。
そのせいか今までの自粛が弾けたように、気づけば捺巳さんの為に行うはずだったクリスマスイベントは、どこから聞いてきたのかあっという間に集まった者たちで規模が膨れ上がり、食えや飲めやのどんちゃん騒ぎの場と化している。

「なんかクリスマスってか、宴会会場のノリになってねぇかぁ?」

追加で届いた熱燗を若衆の酌を断わり自分で猪口についでグイ飲みしながら、腹芸なんてものまでし始めた弘田と数名の若い連中を眺め恭悟さんがケタケタと笑う。
せっかく弘田には休みをやったというのに、おめでたい席に欠席なんてと彼女の方を断わってきたらしい。これでもし弘田が振られたのなら、可愛い弟分の自棄酒くらいは付き合ってやろうと思う。
それにしても、もうかれこれ7時間以上も飲みっぱなしだというのに、顔色一つ変えず飲むペースが落ちない叔父の酒豪っぷりに、感心を通り越して呆れながらその隣。
頭の奥が痺れる感覚にどうも飲みすぎたようだと、酔い醒ましに行くといって席を立った。
座敷を出て中庭に面した渡り廊下まで歩いていけば、後ろから聞こえる喧騒が段々と小さくなっていく。
どこかの窓が開いているのか、アルコールで火照った肌にひんやりとした冷たい風が触れた。

「あれぇ、抜けてきたの?」

不意に聞こえた声に中庭へと目をやれば、ぼんやりとした月明かりの中、さっきまで座敷で親父に絡まれ離してもらえず相手をしていたはずの捺巳さんがそこに立っていて。

「捺巳さんこそ、いつの間に抜け出したんですか?」
「んー、ジィさんの相手してたら夜が明けちゃいそうだし目ぇ盗んで逃げてきちゃった」

脱走は捺巳さんの十八番だ。酒でごっちゃになっている宴会場から抜け出す程度は容易くやってのけるだろう。
なんだかんだいって変わらない相手に苦笑が漏れた。

「親父が怒りますよ」
「もう十分付き合ったって。それよりシノちゃんもこっち降りといでよ。月見酒なんていかが?」

そういってひょいと持ち上げられた一升瓶に誘われるまま、開け放たれていた窓から庭用のつっかけサンダルを履いて外へ出た。
シャツ一枚だけの格好で本当なら寒いはずの外気も、酒の力のおかげかそれほど気にならない。捺巳さんの隣まで歩み寄れば一升瓶が突きつけられる。

「コップは?」
「んなの直瓶でいいでしょ」
「…豪快な飲み方ですね」

注ぐ器もなく仕方なしに瓶に直接口をつけて一口、二口と辛口のそれを喉に流し込む。
どうぞと捺巳さんに手渡せば相手も同じように直瓶でグイグイと呷り、ハァと白い息を吐いた。
恭悟さんと同じでこの主も底なしのワクのようだ。
どれだけ飲めばこの酒豪たちは潰れるのかと一升瓶を片手に飲み続けている捺巳さんを眺めていれば、ふと視界の端に白いものをみつけ顔を上げた。

雪、だ。
いつの間にか姿を隠した月に代わりに、ふわふわと黒を広げた空から白い色が静かに舞い落ちてくる。
あ、と小さな声を上げ雪に気づいた捺巳さんが、空を見上げて眼鏡の奥にある猫のような目を細めた。その横顔を眺め、雪の中に立つ捺巳さんに3年前の光景が蘇る。
捺巳さんと初めて出会ったのも、今日みたいな初雪の夜だった。
熱と怪我のせいで途中から飛んだ意識のせいで、気がつけば病院のベッドの上にいて、素性どころか名前すらも聞けずもう二度と会うことも出来ないだろうと諦めていたのに。
それがなんの偶然か、今こうして目の前に立っている。

「今回の件も捺巳さん一人で片付けられて、結局俺はアンタに恩を返せてないな」
「…シノちゃんてさ、どうしてそうかたっ苦しいの?脳みそ岩で出来てるの?」


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