Y&Sシリーズ | ナノ


▼ 31

見ればテーブル代わりにしていた八嶋のベッドはスナックの菓子クズが散らばり、挙句の果てに誰が零したのかアルコール臭い水で濡れていた。
そんなベッドで眠れというほど鬼ではない。狭いシングルベッドで並んで横になる。
背を向け隅のほうに寝転ぶと、首の下に腕を差し入れられて抱き寄せられた。
夜風で冷えた体に八嶋から伝わる熱が心地良い。抵抗するのを止めて大人しく胸のなかにおさまった。
しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。よく見れば整った男らしいその顔を眺め、そっと硬い頬に触れてみる。ピクリと眉が動いたが、相手が起きる気配はなかった。
ふと井坂との二股を告白したときの八嶋の慌てっぷりを思い出して、思わず小さく笑いが洩れる。
ちょっとした悪戯心。
井坂とは八嶋への気持ちに気づいたあの日に、その関係は友人といったものに変わっていた。井坂がそうしてくれたのだ。
それを隠したのは、いままで散々振り回してくれた相手への、ほんの少しの仕返しだった。
このくらいは許して欲しい。だって人生で初めて、こんなにも好きという気持ちに振り回されたのだから。

朝起きたら寝癖だらけの八嶋におはようと言って。そしてそのあと、記念日だと言ってキスでもしようか。
寝ぼけた顔が、いったいどんな風に変わるのか。
驚きでいっぱいに目を見開くかもしれないし、垂れた目をさらに垂らして笑うかもしれない。
けれど、やっぱり怒るだろうか。
怒った八嶋をどうやって宥めるか。それに悩むのは面倒ではあるけれど、朝のことを想像しただけで幸せな気持ちになった。

まずは、おはようと言って。そのあとのことは、なるようになれだ。
これからきっとこんな日々が続いていくんだろう。
振り回されるのも、振り回すのも、好きなのだから仕方ない。



― END ―





prev / next

[ Main Top ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -