Y&Sシリーズ | ナノ


▼ 25

「仲いいからって、生徒じゃないんですから…」
「まぁ、しゃーねえよ。好きな奴と一緒にいたいんだろ」
「好き?」

誰が誰を?そんなことを聞くほど察しは悪くない。驚くよりも納得した。
付き合っていたのか、あの二人。そう言われてみれば、ただの同僚にしては親密そうな雰囲気だ。

「部屋なんてどこでもいいし、それにちょうどいいから俺も便乗させてもらった」
「…そうですか」
「あれ、逃げねえの?」
「逃げて欲しいんですか?」

こちらだって都合が良かった。いきなりのことで驚きはしたが、話を切り出すにはこの状態はありがたい。
明日は温泉宿で大部屋。明後日は二つのホテルに分かれて泊まることになっていたし、両日とも日中は自由行動とはいえ、京都の某映画村や大阪のアミューズメントパークに行くことになっている。
限られた空間すぎて生徒や他の教師らの目もあるし、好きだなんだと話が出来る環境でもない。
思っていたより八嶋も忙しそうだったため、二人っきりになれる時間をどう作るかで悩んでいたところだった。

「話が、あるんです」
「あー?なに?」

咥え煙草で八嶋がこちらを振り返る。なに、と聞き返しながらも話の内容には予想くらいついているのだろう。のんびりとした口調とは逆に、眉間に薄く皺が寄っている。

「夕食が終わったあとに話します」

いま話すには時間が足りない。出来れば落ち着いて話をしたかった。
八嶋もしつこく問いただすことはせず、わかったとだけ返すと膝の上にノートをひろげ、ペンでなにやら文章を書き始めた。
佐野とは違い、担任の教師らは修学旅行中の報告書を提出することになっている。
こういうところは真面目にやっているのかと、邪魔をしないよう八嶋の分のお茶を湯呑にいれ、ベッドの頭のところにあるスペースに置いてやる。

「どーも。そういや観光はどっこも行ってねえの?」
「ずっと京都駅の上にあるカフェにいましたよ。体調も優れなかったんで、のんびりしようと思って」
「しばらく休んでたよな。風邪でもひいたか?」
「そんなようなもんですね」
「しんどいならこのまま寝とけよ。飯くらい持ってきてやっから」

腕の時計を見やりノートを置いて煙草を消すと、淹れた茶を啜り八嶋がベッドから立ち上がった。ヘッドボードについた時計が示す時間に、佐野も上着を羽織って出る支度をすませる。

「大丈夫ですよ。夕食、鍋でしょう。どうやって持ってくるんです」
「ホテルの人におにぎりでも頼みゃ作ってくれんだろ」
「なんで俺一人、そんな侘しい食事しなきゃなんないんですか。行きますよ」

こんな掛け合いが懐かしい。春に戻ったようだとちょっとした錯覚を覚える。
部屋を出てエレベーターで一階まで降りると、食事の場に提供してもらっているホールの前で関と吉澤に出会った。
四人掛けのテーブルに座ると、ホテルの従業員によって用意されていた鍋は食べごろに煮えていた。
全員が揃ったところで賑やかな声が飛び交うなか、夕食の時間になった。佐野の隣に八嶋。その前に関と吉澤が並んで座っている。

「いきなり部屋変えてもろて、ごめんな」

関が鍋のなかの鶏肉を取り皿によそいながら悪びれもなく詫びる横で、吉澤が黙ったまま頭を小さく下げる。

「こいつ、このとおりぼぉっとしとるし、この旅行かてアウトサイダーみたいなもんやろ。俺が面倒でもみたろか思てな」

付き合っていることがバレていると知らない関が、もっともらしい理由づけで誤魔化すのを、そ知らぬ顔で話を合わせる八嶋に、佐野も気づいていない振りを続けた。
吉澤と目が合うと、申し訳なさそうに笑ってくる。どうやら吉澤のほうは、佐野たちが二人の関係を知っていることに気づいているようだ。ぼんやりとして見えて、意外と鋭い。
一見すると関が振り回しているように見えるが、実際は違うのかもしれなかった。

「そういえば佐野先生、体はもうええの?」
「ええ。すっかり」
「そうか。引率とはいえせっかくの旅行やし、楽しめな損やろ。治ってよかったなぁ」
「明日って、映画村でしたっけ?」


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