Y&Sシリーズ | ナノ


▼ 24

お昼過ぎに京都駅に着くと、そこからは生徒たちの自主行動になった。グループに分かれて、決めていたコースを回るといったものだ。そのあいだ、佐野や教師たちも決められた区域間であれば自由行動になっている。
大きな荷物は貸し切りのバスに積んで、先に宿泊先のホテルに届けてもらうことになっていた。
話をするにはちょうどいいと八嶋を探すが、見つけたときにはすでに、八嶋の隣には彼と仲の良い教師の姿があった。二人で地図を見ているということは、その教師と一緒に回るのだろう。
冗談を言い合いながら楽しそうにしている二人を見ているうちに、胸の内がムカムカとしてきた。声をかける気も失せ、おもしろくない気持ちでその場を離れる。
中央口にあるエスカレーターを上り、吹き抜けになったところにあるセルフカフェでコーヒーを飲んでいると、関に肩を叩かれた。二人セットのように隣には吉澤もいる。

「誰かと回らへんの?」
「行きたいところも特にないんで」
「せやったら一緒にいかへん?関西は地元やし、ちょっとくらいやったら案内も出来るで?」
「体調、悪いんですか?」

黙って立っていた吉澤が佐野の顔を見るなり、控えめに声をかけてきた。

「あー…ほんまやね。なんやいつもに増して顔色悪いわ」

顔を覗き込んで自分の額と佐野の額に手をあて、関が眉根を寄せる。
熱はもう下がっているし、新幹線で寝ていたおかげか体のだるさも大分ましにはなっていた。顔色が悪くみえるのも照明のせいだろう。
それでも気分がすぐれない。せっかくの誘いだったが気乗りせず、当たり障りなく断わろうと素直に二人の言葉に頷いた。

「まだちょっと治りきってないんで。せっかくですけど、今日は集合時間まで大人しくしときます」
「せやね。それがええわ。明日も京都におるんやし、今日はゆっくりしとき」

執拗に誘うことはせず、あっさりと納得して引き下がる関と吉澤に礼を言って別れると、下に見える中央口を見下ろした。
生徒たちの姿は見えなくなってる。教師たちの姿もない。
みんな目当ての場所へ移動したようで、知った顔は見当たらなかった。もちろん八嶋の姿もない。
このまま座っていてもくだらないことばかりを考えてしまいそうで、一度カフェを出て売店で前編と後編に分かれた本を買った。
少ない種類のなかで出来るだけ興味を惹かれそうな内容のものを選んで、さっきのカフェに戻る。
集合時間まで本を読んで時間を潰した。読んだことのない作家の小説だったが、読み始めてみると伏線の張り方が巧妙でトリックがおもしろい。
二冊目の終わり。探偵による謎解きが終わったあたりで集合時間が近づいてきたのか、本から顔を上げて下をみると、中央口に見慣れた制服が疎らに見えた。
腕時計を見ると指示されている時間の10分前。残りのページ数も少なくどうせなら最後まで読んでしまおうと、エピローグと書かれた章を捲った。
読み終わるとちょうどいい時間だった。本を鞄にしまって中央口に下りる。整列した生徒の点呼が始まっているところだった。こういうときに決まって何人かは遅れてくるものだ。
思ったとおり、ひとグループの到着が遅れ、少しばかり時間をオーバーしたものの、怪我人もなくバスに乗り込み宿泊先のホテルに移動する。
夕食の時間までは各自、自由時間になっていた。
部屋割りを確認し、割り振られた部屋に入る。二人一組の部屋は二つのベッドが並んで置いてあったが、同部屋の教師はまだきていない。
佐野と一緒になったのは7組の担任の関で、さっき見かけたが吉澤と一緒にいたところをみると話し込んででもいるのだろう。
勝手に手前のベッドを陣取ると荷物をその上に置いた。さしてすることもなく、上着を脱いで椅子の背にかけると、備えつけのティーパックで熱い緑茶を入れてベッドに腰かける。
明日の日程でも確認しておこうかと、渡されていた旅行のしおりを開いた。

「観光、楽しかったですか?」
「祗園で舞妓見かけたが、綺麗なもんだな」

ドアの開く音に関が来たものと顔を上げずに声をかけたが、返ってきたのは方言のある関の声ではなく、緩い口調の…。

「八嶋先生…」
「おまえはどこ見て回ってたんだ?全然、姿見かけなかったけど」
「俺は観光には…って、なんでここに?」

荷物を隣のベッドに置いてネクタイを緩めながら煙草に火をつけ、すっかり寛ぐムードになっている八嶋に、自分が部屋を間違えたのかとしおりの後ろにある部屋割り表を確認する。
405号室で関と同室。ルームナンバーも間違いない。

「八嶋先生の部屋、一階下ですよ」
「ああ、なんか関先生に部屋代わってくれって、さっき頼まれたんだわ」
「なんでまた…」
「田辺先生の代わりに吉澤先生が来ただろ。俺と同室がその吉澤先生だからじゃねえの。仲いいからな、あそこ」


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