Y&Sシリーズ | ナノ


▼ 18

「秋が悪いんじゃねーよ。んな格好してないで早く服着てこい」
「でも、なんかアタシのせいで誤解されたっぽいもん。あの人、ハルちゃんの彼女なんでしょ?」
「妹が泊まりに来てるって話してなかった俺が悪いの。もういいから、気にすんな」
「うー…」
「秋、着替えてこい」
「…わかった」

渋々と秋が着替えに戻ると、先ほどのように体を倒しベッドの上に転がった。
遅かれ早かれこうなっていたのだ。その証拠に井坂が今日来たのだって避けられていることに気づいて、様子を見に来たのかもしれない。
秋のことはきっかけにすぎない。
自分でも最低だと思うが、このまま井坂と別れることになるなら、それでも構わなかった。

またインターホンが鳴った。着替えをすませた秋が寝室を覗き込んでくる。

「さっきの人かな。アタシ、ちゃんと説明しようか?」
「いや、大丈夫」

ベッドを降りてインターホンの受話器を上げる。聞こえてきたのは井坂ではなく夏深のものだった。時計を見ると夜というにはまだ早い。それにこの時間なら仕事の定時には早い。
チラッと秋を見ると、心配そうに後ろに突っ立っている。面倒事は重なるものだ。

「いま、開ける」

短く告げて玄関に向かう後ろを秋がついてくる。井坂だと思っているのだろう。
玄関を開けた途端、そこに立っていた人物を見て秋の表情が強張った。

「夏兄!!」
「迎えに来た。帰るぞ」

悲鳴に近い声を上げて奥に逃げようとした秋を、佐野を押しどけ入ってきた夏深が腕を掴んで引き止める。
突然の兄の訪問に、さっきまでのしおらしさはどこにいったのかというほど、喚いて暴れる秋を、夏深が羽交い絞めにして捕らえる。
小柄な秋が暴れたところで、佐野よりも体格の大きい弟には大した抵抗でもないらしい。それでもさすがに引っ張って行くのが無理と感じたのか、軽々と秋の体を肩に担ぎ上げた。これには止めに入らざる得ない。

「やりすぎだ、夏深」
「離してよっ!もうっなんなの!」

二人からの抗議の声にも動じずそのまま玄関の外に出て行こうとする弟を、ドアを閉めて遮る。片眉を不機嫌そうに上げてこっちを見てくる夏深を睨みつけ、ドアの前に立ち塞がった。

「どいてくれ」
「この状態でどくとかねーよ。ふざけんな」
「秋が逃げようとするからだろ」
「とりあえずなか入れ。そのまま出ていかれたら近所迷惑だ」
「…わかった」

担ぎ上げられてもなお暴れ続ける秋に、佐野の言うことも一理あると思ったのか外に出ることは諦め夏深がリビングに入る。やっと降ろしてもらえた秋が、ソファに座りふくれっ面でそっぽを向いていた。

「極端なことすんなよ、傍から見りゃさっきの誘拐拉致だっつの」

夏深の後頭部を平手で叩き、キッチンに行って三人分のコーヒーを淹れて戻る。さっき井坂からもらったケーキの箱が目にとまり、それも一緒に出した。
完全にヘソを曲げた秋は、好物のケーキを前にしても不貞腐れた顔を背けている。

「秋、帰るぞ」
「嫌ですぅー」
「秋!」
「怒鳴らなくても聞こえてるわよっ。夏兄うるさい!」
「うるさいとはなんだっ。もとはといえば、おまえがそういう態度をとるからだろうがっ」
「人のせいにしないでよっ」
「おまえら二人ともうるせーよ」

怒鳴り合いになり出した二人に、うんざりとした口調でぼやく。不本意そうにこちらを見る夏深を一瞥し、煙草に火をつけ吸った煙を細く吐いた。
次から次へと厄介事ばかりでいい加減疲れていた。苛立った空気を察したのか、二人ともが口を噤んでコーヒーに口をつける。

「…夏兄のせいで倖ちゃん怒っちゃったじゃん」
「俺のせいじゃないだろ。おまえがキィキィ喚くから兄貴が…」


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