Y&Sシリーズ | ナノ


▼ 15







前言撤回。
秋が来てから一週間が経とうとしていたが、そのあいだ佐野は毎日のように振り回されていた。
夜中にいきなりプリンが食べたいとごねだしてコンビニまで行かされたり、この前の土日はまる二日とも秋に付き合わされた。
仕事も仕事で忙しく、家にいればいたで秋が傍から離れない。余計なことを考える時間がなくていいといえばいいのだが、その分疲労も大きくて、なにがプラスでマイナスなのかわからなかった。
昼休みに入り出勤前に買ってきたコンビニ弁当に手をつけようとしたところで、携帯が鳴り出した。
せっかくゆっくり出来る時間にいったい誰だと、放っておこうとするもディスプレイを見て箸を置く。

「なに?」
『いきなり、なにはないだろう。電話くらいちゃんと出ろよ』
「うるせえな。なんの用だよ」
『秋、まだ兄貴のとこにいるのか?もう一週間だぞ』

家に来たときには連絡を入れるように言っておいたが、一度電話したきりでずっと放っておいたのか。電話しても出ないと言う夏深の声は、電話越しでもわかるくらいに怒っている。

「本人が帰らねえんだし、仕方ないだろ」
『兄貴は秋に甘すぎる!そうやって甘やかすから、あいつが―――』

面倒くさいと携帯を耳から離した。遠ざけても夏深の声は受話口から漏れている。声が聞こえなくなったところで携帯を耳に戻す。

「一人暮らしくらい、させてやりゃいいのに」
『駄目だ。まだ18なんだぞ。それに秋は女だし、なにかあったらどうすんだよ』
「過保護」
『妹心配してなにが悪い』

微塵の躊躇いもなく開きなおる相手に、このときばかりは秋に同情した。うんざりする気持ちもわかる。むしろここまでくると、我が弟ながら気持ち悪い。

「心配すんのが悪いなんて言ってない。ただ、頭ごなしに怒ったところで、ちいせぇガキじゃねーんだから、納得するわけないだろ」
『そう言うけどな、料理も出来ないし放っておくと夜遊びはするし、秋に一人暮らしなんてさせたら、せっかく入った大学だって辞めかねないじゃないか』
「もう少し信用してやれって」
『じゃあ兄貴は秋が真面目に大学に行くと思うのかよ』
「いや、思わないな」

即答すると、夏深が言葉に詰まる。話の流れから、まさかあっさりと認められるとは思わなかったのだろう。

「とりあえず、お前はちょっと落ち着け」
『ちゃんと落ち着いてる』
「なら秋の性格くらいわかんだろ。駄目だって言われて大人しくきくような奴か」
『…とにかく、一人暮らしは許可出来ない。秋は今日の夜に迎えに行くから』

秋も頑固なら、夏深はそれ以上に頑固だ。特に秋のこととなると輪をかけて強情になる。
ここで諭したところで引き下がるような相手じゃないことは、兄弟として長年付き合ってきたことでわかっていた。来るなといったところで聞き入れはしないだろう。

「来んのは構わねえけど、無理やり引っ張って帰んなよ。ギャアギャア騒がれんのは迷惑だ」
『あいつ次第だ。っと、呼び出し入ったから切るわ。じゃあまた夜に』

一方的に告げて通話が切られる。相手のいなくなった携帯をデスクの上に戻し、溜息をついた。
夜のことを考えると憂鬱だった。あの調子じゃ確実に今夜は、二人の喧嘩に巻き込まれる。
末っ子で年の離れた妹だけあって甘えたで寂しがりで、料理も家事も苦手な秋が一人暮らしなど出来るわけがない。
家出しているいまだって、ホームシックにかかっているのは見ていてわかる。鬱陶しく佐野に絡んできているのも、そんな心境からきているのだ。
しばらくすれば。佐野が修学旅行で家をあけることになる。そのころには実家に戻ると言い出すだろうし、放っておけば熱も冷めるだろうに。

「先生。足擦りむいたー」

勢いよくドアが開けられると、ジャージの裾を膝の上まで捲くり上げた生徒が入ってきた。
休憩は諦めざるを得ないようだ。


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