Y&Sシリーズ | ナノ


▼ 9

椅子から倒れそうになる体を、慌てて八嶋が支えてくれる。

「なにやってんだ…って、佐野さん大丈夫なのかよ」

トイレから戻ってきた浅田が二人の様子を見て訝しるも、佐野を見て眉をひそめた。

「結構飲んでたから潰れただけだ。連れて帰るわ」
「手伝おうか?タクシー拾うのに一人じゃ大変だろ」

抱えるのを手伝おうと佐野に伸ばされた浅田の手に、一万円札が乗せられる。

「代わりにそれで支払いしといて。釣りはありがたく受け取っとけよ。…佐野先生、歩けるか?こっち寄り掛かっていいから」
「……ん」

八嶋の腕に支えられ椅子を立った。一人で歩けると回された腕を振りほどこうとするも、足元がおぼつかず半ば抱えられるようにして店を出る。
通りに出るとタクシーはすぐに捕まった。支えがなければ一人で立つことも出来ない佐野を後部座席に乗せ、その隣に八嶋が座る。
八嶋がなにか聞いてきたが、なにを言っているのか理解出来なかった。
瞼がひどく重たい。声を出すのも億劫だった。






目が覚めると見知らぬ天井が目に入った。
体がだるい。胸の辺りにもやもやとした不快感があった。重鈍い頭の痛みに、それでもなんとか思考を巡らせようと、痛みをこらえて記憶を手繰る。
昨日は仕事帰りに八嶋と飲みに出かけて、途中、浅田とかいうよく喋る男がきて。
そこまでは思い出せたが、それ以降の記憶が途切れていて思い出せない。
ここは何処なのだろう。とにかくそれを確かめるのが先だ。部屋の様子をよく見ようと身じろぐ。動かした足になにかが触れた。

「っ!……」

癖のある黒髪が目にとまる。至近距離にあった顔に、二日酔いと寝起きのせいで靄がかっていた意識が一気に覚めた。
瞼が震え、目尻の下がった目がうっすらと開けられる。

「…おはよう」

目が合うなり挨拶を口にする相手に、硬直したまま絶句した。状況が理解できず混乱に固まるこちらを気にする様子もなく、起き上がった八嶋はベッドに腰かけて暢気に煙草を吸い出す。

「その様子じゃ覚えてないみたいだけど、昨日おまえ、店で潰れたんだよ。送っていこうにも家の場所も言えねえ状態だったし、仕方ないから連れて帰ってきた」
「…潰れた?」

言われてみると引っ掛かる記憶がある。
鬱陶しいほど喋ってくる浅田にイラついて、害した気分を飲んでまぎらわそうとしたのだ。
そうだ。それで飲んでるうちに気が遠くなって、酔い潰れたのか。

「…すみません」
「いや、いいよ。それより二日酔いは平気なんか?」
「ええ、なんとか…」

平気ですと答えようとして、慌てて飛び起き自分の携帯を探した。
急に起き上がった佐野を八嶋が怪訝そうに振り返る。

「どうした?」
「俺の携帯知りません?ってか、いま何時ですか?」
「10時半過ぎ。携帯はそこのテーブルの上に置いてあんぞ」

時間を聞いて急く気が萎えた。井坂と約束した時間はとっくに過ぎている。
いまさらジタバタしたところで間に合うわけでもない。

「なんだよ、いきなり」
「予定があったんで」

答えながらベッドから出て携帯を取りにいく。点滅している携帯を開くと二件、井坂から不在着信が残っていた。時間をみると10時17分とついさっきだ。

「何時から?」
「10時」
「過ぎてんじゃねえか。んなのんびりしてる場合じゃないだろ」
「急いだところで間に合うわけじゃないですから。ちょっと電話かけてきます」


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