イミラバ | ナノ


▼ 柏田Side







「では、引き続きお願いします」
「動きがあったのか?」

西田に張りつかせている相手から、定例の報告にかかってきた電話を切るなり寄越された声に頷くと、パソコンの画面に向けられていた浅北の目がこちらに据えられた。
急ぎの仕事だからしばらく話しかけるなと言っていたが、西田に関する情報は報告を優先するように言われている。

「秋津さんからの報告ですが、西田が詩乃さんの周囲を探っているようです。詩乃さんの警護レベルを上げますか」
「ああ、学校のなかにもついていかせろ」
「わかりました」

西田がそろそろ動き出すであろうことは想定内で、確認作業のような会話のあと、思考を次のステップに切り替えた。
まずは詩乃が通う高校の理事長に、部外者の立ち入りを認めさせなければならない。
聖蘭の理事は金に弱い男だから、寄付金を積めば問題なくこちらの要求が通るはずだ。
あとは学校での護衛だが、精鋭を一人、しかも女がいい。
ぞろぞろと人をつけるわけにはいくまいし、男だと入れない場所が多く女子高ともなれば目立ちすぎる。
信頼が出来て腕のいい女。条件としては厳しいが、こちらの適材にも心当たりがあり、前もっておさえてあった。手配について特にさしあたっての問題はない。
頭のなかで算段を立てていれば、ふと視線を感じて浅北を振り返る。画面を見ていたはずの目がこちらに向けられていて、振り返るなり目が合った。

「なにか?」
「他に報告することはないのか?」
「え?」

他にと言われても心当たりがない。報告すべきことはしているし、浅北が気にかけるほど重要な用件ならなおのことだ。
なにもありませんと答えると、再び画面に目が戻りあとは何事もなかったようにキーボードを叩く音だけが聞こえてくる。
一体、なにを気にしているのだろうか。
あっさりと引いたところをみれば、それほど重要な話ではないのだろう。いや、浅北が些細なことであんな質問をしてくるはずがない。
いまの大事な局面で、どこか見落としている箇所があるのかと不安が過ぎり、いつもならこのまま引き下がるところを、疎ましがられるのを覚悟で声をかけた。

「気にかかることでもあるんですか」
「いや、岸田からの連絡はあったのかと思っただけだ。大人しく引き下がったならそれでいい」

どんな嫌味が返ってくるかと身構えるも、浅北から返ってきたのは予想外の内容だった。不意打ちのように聞いた岸田の名前に、胸の奥の方でざわりと蠢く淀みを感じる。

「岸田からの連絡はありません。金を受け取った様子もないですし、もう忘れたいのかもしれませんね。あんな目に合ったのだから、そう思っても…」

つい漏れた言葉にはたと我に返り口を噤んだ。突然の岸田の話に動揺し余計な一言を言ってしまった。失敗したかと浅北を見るも覚悟した睨む目はなく、こちらの言葉には無反応で無感情な目がディズプレイを見据えている。

…縁さんに嫌味を言ってどうする。

岸田に対しての浅北の仕打ちに納得できていないのは確かだが、所詮は従う身である自分が主を皮肉るなど身の程を弁えない奴だと叱責を受けてしかるべしだ。それに、自分が浅北を責めるのは間違っている。自分だって同罪なのに…。

「縁さん」

聞こえなかったはずがない。控えめに声をかけると、一瞬だけ浅北の目がこちらに向けられたが、それだけで他にはなんら反応らしいものはなかった。
なにかを言い出せる雰囲気でもなく、これ以上失言を重ねないうちにと部屋を出た。扉を閉めると凭れ掛かり溜息が漏れる。
いまなにかしくじれば、それが組の、浅北の今後に大きく影響する。ここからが正念場であり大事な時期だというのに。

「なにをやっているんだ、私は…」



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